要くんは陰キャを目指す

 鼻血ブー事件後、誰かにケンカを売られる事もなく、春斗からも愛について質問されることも無かった。

 何も無いのは何となく不安なものだとか思いながらも登校すると、

 今朝は隣のクラスが騒がしい。春斗と僕は好奇心から覗きに行った。


 え.......衝撃である。


 要くんがほんのり茶色かった髪を真っ黒にし、何故か前髪オンザ眉毛に眼鏡をかけている。え どうしたのか、何があったのだ。


「ちょっとやばくない。あれっ」


「要くんってさ、雰囲気イケメンだったんだね。パーツよく見たら大したことないじゃんっ」


「キモくなったよね」


 なんという言われよう。たしかに、僕は心の中でつぶやく。


 勝った......

 あっすいません。


 どうしたんだろう。尻子玉でも抜かれたのかな。

 要くんは僕らの前を素通りし、うちの教室へ入り愛の席へ行った。

 えっ何?君玉砕したって聞きましたけど。

 あんまりしつこいと、愛の彼氏が怒りますよ。


「愛」


 愛は要くんの呼びかけに顔も上げずノートに何かを書き込んでいる。


「俺、変わるから。頑張るから。愛に振り向いてほしいから」


 あ、あ、要くんセリフはかっこ悪くないけどさ、その......。


 愛がおもてをあげた、顔色一つ変えず


「似合ってるじゃん」


 えー?隣近所からも「え?」が連発している。なんだこれは。

 要くんはみんなに、「おはよう」って力無く言いながら退散した.....。

 僕も、要くんをぎゃふんと言わせたかったが、あれを見たら戦意喪失である。


 春斗が愛に聞きに行った。


「愛ちゃん何あれ。ゼッテー似合ってないじゃんっ。」

「ん?こないだ、どんな男が好きかって言うから」

「え、の結果があれ?」

「うん」


 凄いなあ。愛の一言は鵜呑みにするのか要くん.....。

 朝のチャイムなるまでマーサの笑い声が廊下に響いていた。


 今日は塾がないからゆっくり帰れる。

 僕はどうやって春斗と凛ちゃんを先に行かせるか悩みながら歩く。

「愛と太陽くん塾だよね。ほらっ帰ろ春斗くん」

 と凛ちゃんが春斗と連れて帰った。


 僕らは駅を通り過ぎ、駅ビルの広場のベンチに座る。あえて人通りの少ないところへ。


「ね、太陽......彩花が太陽に好きって言ったらどうする?」

「え?ありえないでしょ」

「わかんないでしょっ。」


 と愛は端正な美顔をプーと膨らます。

 可愛い......こんな顔はじめてみたのだ。


「愛、かわいい」


 僕は愛の髪をなでながら頭をぽんぽんした。漫画でみたし、素直にやりたくなったんだ。可愛すぎて。いつか要くんにされてたぽんぽんを上書きしたかったのもある。


 愛は照れたように少し顔を赤らめて僕を見た。

 キュンとしたかな。どうこれ?愛っどうかな。


「太陽 すっかりイケメンくん。不安だな」

「不安?」

「ん。モテちゃいそう。」

「モテるなんて.....僕は愛にだけモテたい」


 ひゃっはあ。自爆しそうだ我ながら何を言っているんだ。

 愛は僕の肩に頭をつけてもたれた。

 やっぱり僕の心臓はバクバクする。シャンプーの香りってこんな時間までもつんだな、ふぁ〜とトロけそうだ。

 僕はトロケて愛の頭に口づけをした。微かにだから気づかないレベルの変態行為に近い、頭に鼻息がかかった程度である。


 そろそろ帰ろうかとしたら、愛が顔をこちらに向けた。何かを待っている......え、まさか。いや僕はキスとかしたことない。

 でも、僕史上最大級レベルに可愛い愛が目の前に。


 僕は、愛の髪を掻き分け、おでこにチュッとした。

 愛は何も言わずに微笑んで僕の胸に頭をうずめてぐりぐりした。なんだ.....どうしてこんなにひとつひとつの動きが可愛いのだろう。

 これは、益々こちらが不安の2文字に取り憑かれる。

 僕にだけぐりぐりして欲しい衝動にかられた。

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