求愛のうわさ

 すっかり平和になった学園だったがそんな日々は長続きしないようで、今僕は学校の駅で予想外の人に出くわした。時刻は朝7時45分である。

 皆より少し早い僕の登校時間である。


 改札口を出たところで壁にもたれ腕組みした彼女は僕を見つけるとスタスタと歩いてきた。


「おはよう 山本太陽 連絡ひとつよこさないのはどうして」

「おはよう......」


 僕はすっかり彩花のピッチ番号うんぬんの話は忘れていたしあの紙だって何処かに眠っている。

 それに愛とトラブルの元に成りかねないこんな子とは関わりたくないのだ。


「あのさ、僕は君みたいなタイプと仲良く出来ない。ごめん」


 と彩花の前を通過しそのまま歩き出すも早足で追いついて来る。


「そんな言い方は失礼よ。私が仲良くしてあげるって言ってるのに」

「どうしていつも上から言うんだ。全員が全員仲良くしたいと思ってるわけじゃない」

「.......」

「あ ごめん」

「いえ。じゃ今から学校まで同行してもよろしくって?」

「あ、いやそれは.....」


 と奇妙な敬語を話し出す彩花について来られる形で登校する。


「どうして僕にかまう?」

「それは」

「愛と仲良いから?愛をひとりにしたいから?」

「愛は関係ないのよ」

「じゃ、なに」

「どうして私に興味を示さないのかしら」

「ん?」


 と、校門の前でいつもより早く来たらしい愛と凛ちゃんを発見。


「おはよう」

「おはよう」


 愛は知らん顔で行こうとしたが彩花が呼び止めた。


「愛!山本太陽のこと別に好きじゃないのよね?」

「彩花には関係ないでしょ」

 と愛は僕らより先を歩く。


 僕は愛に追いつこうと早足で歩くが彩花が僕の腕を掴む。

「なに」

「ちょっとまだ話があるのよ」

「僕はない」

「酷いわね......」


 結局そのまま僕は彩花と登校した形となり、それを数人が目撃したのである。よって、その日彩花に求愛する山本という話題一色となった。


「はあ......」

「おいっムスコ お前今朝、彩花嬢に告ったのか?どういうこと?」

「分からない。新手の嫌がらせかも」

「は?愛ちゃんは?」

「え」

「凛ちゃんに口止めされてっけど、俺知ってるんだからな!」


 そうか僕は気を遣わせていたのか。

 彩花をどうしよう。やっぱり愛のことをみんなの前で.....いや、それをしたらだれが何をするか。


 何かないかな......。


 昼休み チャイムが鳴るとともに僕は隣のクラスにダッシュした。


「藤堂彩花さん 僕は君に告白なんてしてない!しない!」


「なんだあいつ頭おかしいんじゃね」

「愛ちゃんにへばりついてさ、今度は彩花にどんだけ自己評価高いんだよ」

「マジで妄想やばくね?キモっ」


 彩花は知らん顔していた。


 僕はそのまま愛と春斗と凛ちゃんがお弁当食べてる席へ行き、「あんなの嘘だから。愛、信じてるよね」って言った。

 何も言わなくても微笑んでくれるだろうなんていう僕の考えは愛の冷たい顔で瞬時に消える。


「もう、いいよ。ごめんね 太陽」


 ごめんね 太陽.....?もういいって何が?


 意味がわからず、どうもショックな僕は弁当握りしめて屋上に一人走った。

 どうしたらいいんだ。

 殺風景なコンクリートとフェンスを眺め冷たいコンクリートの四角い段に座り、弁当を包んだ布の結び目を持ったまま、どれほどの間考え込んでいただろう。


 すると僕の隣に誰かが座った。顔を見なくてもわかるこの香り、気配だけで僕の心をときめかせる人。


「お弁当食べないの?時間無くなるよ」

「.......僕は無能だね」

「太陽......あのさ 母さんと彩花の両親ね、高校時代の友達でずっと三角関係だったの。お父さんがしっかりしないからこうなったんだけど。それを知ってから彩花と仲良くできなくなったし、彩花と同じ人好きになったりは絶対嫌だった。だから、好きな人なんて作らなかった。なのに、太陽が現れて......そしたら彩花までなんてさ.....こんなの嫌なの」

「僕 ちゃんと言うよ。愛と付き合ってるてって。だからそんな風に言わないで、さよならはしないから」

「......太陽」


 きっと彩花は僕のこと好きなんかじゃない、愛から奪いたいだけだろう。父親だけじゃなく友達だろうが恋人だろうが全部。


 ☆


 放課後


 またもや僕は隣のクラスのドアを開け放ち叫ぶ


「僕は愛と付き合っています!!!」

 と隣のクラス中笑い声が巻き起こった、通りがかった他のクラスの子たちも笑う。

 え、どうして信じない......。


「愛ちゃんが付き合うわけ無いだろ」

「なになになんて?」「山本が愛ちゃんと付き合ってる宣言した」

「はあ?イタすぎ」


 はあ......愛ブランドは想像以上であった。

 これは、愛と手をつないで登下校でもしない限り誰も信じないであろう。


 笑い声の渦巻く中、要くんと彩花は真顔でこちらを見ていた。

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