第17話 嫌われるかも……って思ってます
「得意分野以外の魔法を使うときは、その殆どに呪文の詠唱が必要になるのね……。さくらちゃんもそうでしょ?」
「呪文の詠唱って? あの、魔法を使おうとするときに、頭の中に自然に浮かんでくる言葉のことですか? 使ったことないですけど……」
さくらが真剣な眼差しで、
母からは、生前、聞かされたことのない話をされて、さくら自身も理解に困っているようだった。
今のさくら通り商店街では、魔法の話を全員が聞いてくれても、教えてくれる人たちはいないのだ。
さくらのその言葉に、小百合は驚きを隠せないまま聞いてくる。
「詠唱したことないの……? それで、思ったとおりに使えてるの? 魔法……?」
「はい。今まで、特に困ったことはありませんでしたし……」
「うーん。
「どういうことですか? 母が亡くなってから、魔法のことを教えていただける人って、周囲にいなかったので」
「それはそうよ。わたしだって、志乃ちゃん以外の魔法使いって、さくらちゃんが初めてだし……。そういう意味では、わたしには常に志乃ちゃんていう、偉大な魔法使いがいてくれたものね……」
「はい」
「志乃ちゃんは、自分ひとりで、いろいろと調べたみたいよ……。今のさくらちゃんのように、周りに話せる人がいなくて……」
「そうなんですか?」
「えぇ、そのようね……」
そう言って小百合は笑う。
そして。
「わたしたちが魔法を発動しようとすると、自然と頭の中に言葉がでてくるでしょ。それが、さくらちゃんの言うとおり、魔法を使うための呪文になってるの。その言葉をそのまま詠唱すると、確実で強力な魔法が発動する仕組みみたい」
「はい」
「でも、強力な魔法の呪文は、詠唱に時間がかかるから、その場でタイミングよく魔法を使うのは難しいことよね……?」
「そうですね」
さくらは、魔法の発動時に、頭の中に浮かぶ、長い言葉のことを思い出していた。
「そうですね……って、さくらちゃん、あなたは、その呪文を、すっかりパスして、魔法を発動させてる訳でしょ?」
「はい、でも、それが?」
小百合の言っていることが、理解しきれずにいるさくらは、しきりに首を捻る。
「うーん、そうねぇ……。例えば、わたしとさくらちゃんが、同時に同じ魔法を使ったとしましょう……か?」
「はい」
「わたしは、その魔法を発動させるまでに、呪文を詠唱し終えなければいけないけど、その間に、さくらちゃんはすでに、魔法を使い終えてることになるわよね……」
「そうですね。詠唱しないで魔法が使えるってことは、タイムロスが限りなくゼロに近づくんだ」
「そういうこと……。この世界に存在するのか分からないけど、超能力とも張り合えるわよね……?」
「それなら、魔法が発動するまでの時間を気にしなければ、呪文を詠唱すれば、もっと強力な魔法を使うこともできるんですね」
「そうね……。でも、さくらちゃんは、今のままでいいと思うわよ。相当強力な魔法まで詠唱しないで使えてるのよね? それ以上、力が強くなっても、さくらちゃん自身が制御できなくなるとたいへんよ……」
小百合から、この話を聞くまでは、さくらは自分の魔法が、まだ強力になるなどとは、考えたこともなかったのだ。
亡くなった母、志乃からは、魔法は想像力だということ以外、なにひとつ教えられていなかったのだと、さくらは改めて思った。
そのさくらの想いを、小百合は感じたようで。
「志乃ちゃんは、さくらちゃんに、教えなかったのではないと思うわよ」
「えっ?」
小百合からの突然の言葉に、さくらの返事は、間の抜けたものになっていた。
「志乃ちゃんは、さくらちゃんの魔法に対する潜在能力の高さを、初めから見抜いてたのかもしれないわね……。だからこそ、それ以上の強力な力を、求めさせなかったのだと思うわ……」
「そうでしょうか?」
「そうよ……。今だって、魔法を使うのに苦労はしてないって、さくらちゃん、言ってたでしょ……?」
「はい」
「それなら、その今の立ち位置が、さくらちゃんにとって、ベストなんだと思うわ……」
そう言って、小百合さんが優しく微笑む。
「そうですね。母に教えられたことだけでも、不自由はしていませんし……」
「そうそう。さくらちゃんみたいに、素直でいい子は……、小百合さん、好きよ」
「そんなふうに言っていただけると、嬉しいです……けど」
「けど……?」
「はい。これを、お聞きしたら嫌われるかも……って思ってます」
「そんなことないわよ……。それで? さくらちゃんは、なにをわたしに聞きたいのかしら?」
「はい、あの……、小百合さんが、最後に魔法を使ったのはいつですか?」
「えっ?」
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