第3話 自分が努力することで叶うこと

 しのぶの口から出てきた、『魔法使い』という言葉。

 それを、マリはさくらの持つ力と表現している。

 そして、ここ『さくら通り商店街』の住人は、全員がこの事実を知っているという。


 さくらが誰に向けるというわけでもなく、呟くように話し出す。

「この国には、今も数人の魔法使いが存在してるって、母は生前言ってました。母も魔法使いでしたし……。世界中に三百人くらいはいる計算になります。その中には自分が魔法使いだって、気づいていない人もいるそうです。でも……、魔法使いの持つその力で、周囲に恐怖心が芽生えることで、迫害を受けているのがほとんどだそうです。魔法使いだってひとりの人間なので、魔法でなんでもできる訳ではなくて、たくさんの人たちの集まった力には適うわけなんてなくて……。中には殺害された『魔法使い』もいるって言ってました。未だに古い時代の『魔女狩り』みたいなことをするところもあるらしくて……」


 さくらの表情が暗くなっていくのが、しのぶもマリも解ったようだ。

「さくらちゃんも、学校で虐められてるの……?」

 今度は、それを言ったマリが泣きそうな顔になっている。

 慌てるさくらが、カウンター越しにマリに声をかける。

「そんなことないです。大丈夫ですって。人前で魔法は簡単には使うなって、小さい頃から母に言われ続けてきましたし」

「そうだったわね。それが志乃しのさんの口癖だったものね」

「はい」

「……ほかの人が、自分が努力することで叶うことには、さくらも魔法は使わずに精一杯の努力をしなさい……だったよね? わたしもあの志乃さんの言葉には、思い知らされたからね」

 しのぶが懐かしむように呟いたのが、さくらが高校に入学する、少し前に亡くなった母の言葉だった。子どものさくらに、いつもやさしく諭すように話しかけてくれたのだ。


「母の教えですから、学校ではできるだけ使わないように気をつけてます。でも、入学早々に一度だけ使っちゃいましたけど……。それだけですよ」

「さくらちゃんは、今でもしっかりと、志乃さんに言われたことを守ってるのねぇ」

 しのぶが、しきりに頷いている。隣のマリも、しのぶと同じように動いている。


「でも、さくらちゃんは偉いと思うわよ。志乃さんが亡くなって、まだ半年でしょ。それなのに、今ではしっかりと一人で生活してるんだもの」

「しのぶさんたらっ、だっ、だめですよぉ、さくらちゃんの前で」

 マリが慌てて、しのぶを止めた。

「母のことなら、もう大丈夫です。マリ姉も気にしないで」

「でっ、でもさぁ……。さくらちゃんは、寂しくないの?」

「この商店街で、マリ姉やしのぶさんたちと一緒にいたら、賑やかすぎて寂しがってる時間なんてないですよ。だから、大丈夫です」


 さくらはそう言って、控えめに笑った。

 それでもさくらを見つめるマリは、心配そうな表情を崩してはいなかった。

 そんなマリの顔をみながら、さくらは、同じ商店街で暮らす優しい人たちに、余計な心配をかけないようにするためにも、もっとがんばらないといけないと、密かに思うのだった。

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