第26話 星空の君と流星の騎手

 三位一体の英雄及び火龍の末裔達による、異星の略奪者とのたった三日間の戦いは、勝利という形で幕を閉じた。

 母船を奪い、全員が揃って宇宙空間から帰還。戦闘に参加した男達には重傷者多数だったが、女子供に犠牲は皆無。建物や自然も、被害は受けていても早期解決の為に深刻なものではなかった。総じて見れば、奪われた多くを取り戻した完全に近い勝利と言えるだろう。


 だが、それで生活が元通りに戻った訳ではない。

 方々へ襲来していた円盤により海外の各国もその存在を知るところとなり、合同調査が始まったからだ。主にハイトとショトラが要請を受け事情を説明し、情報を共有。各機械も徹底的に調べられた。異星の存在が各地へ広まり、新たな火種ともなってしまう。

 終結しても尚、世界中を巻き込んだ騒動となり収まるまでに長い時間がかかったのだった。


 そして、ある程度収まった後は、いよいよ。






 星が煌めく暗黒の宇宙空間。

 美しく、壮大で、かつては神々の居場所だった領域。だが今は最早、人の手が届く場所である。

 この時も大規模な円盤型宇宙船の船団と、母船級の円盤型宇宙船が対峙している。宇宙規模からすればちっぽけな、しかし当人達にとっては人生を懸けるに値する、大きな戦いが起ころうとしていた。


 しかしその対峙する一方。母船級の宇宙船の管制室では、乗組員の一人が情けなく喚いていた。


「無理無理無理無理無理無理無理。こんなの勝てる訳ない。早く降参しなけりゃ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……」

「仕事をしろ。捕虜が文句を言うんじゃない」

「最低だ、人権侵害だ、野蛮人の横暴だ!」

「言っておくが喚いても降参しても助からないぞ。ワタシ達は一蓮托生。死ぬ確率が上がるだけだ」

「畜生おぉー!」


 ショトラに冷たくされた相手は、虫のような見た目の異星人。この母船にて円盤を指揮する、略奪者の末端だった人物だ。現在は協力を条件に自由を認められた捕虜である。遠征に必要不可欠な人材だったからだ。


 ショトラ達が行っているのは奪われた全てを奪還する為の、宇宙を股にかけた大規模な遠征である。

 これには多くの人物が参加していた。今回の騒動で宇宙を知った様々な国の人が、恩返し、正義感、興味本意、様々な理由で乗り込んだのだ。

 無論知識や技術の習得など、事前に最低限の準備はしていた。しかし、ほとんどはやはり素人。経験を持つ捕虜は非常に助かる。遠慮無く酷使させてもらっていた。


「さあ、射程圏内だ。こちらの指揮はワタシが担当する。敵方の解析は頼んだ」

「この仕事量をやれと? 計算すらマトモに出来ないのか?」

「キミの能力は正確に把握しているとも。それに、仕事はワタシより少ないだろう。死ぬ気でやれば勝てるはずだ」

「やっぱり根性論じゃないか、野蛮人め!」


 文句は止まないが、時間は無慈悲。彼方の宙域で戦端は開かれる。

 

 円盤同士が光線を放ち合う。清浄な暗黒を無数の熱量が引き裂く。

 膨大な数の敵味方が、壊し壊され部品となって散っていった。

 観測、予測、管制室もまた数字が飛び交う戦場。ショトラらが主導し、不慣れな乗組員達も尽力する。情けない文句すらいつしか消えた。

 全員が一丸となって、渡り合っていた。


 そこに、余所からの声が割り込んできた。


「なあ、俺はまだか?」

「うわっ、馬鹿が出た!」

「失礼だな。無駄口を叩くんじゃない」

「はは、まあ間違ってない。むしろ誉め言葉だ」


 自らの悪口を受け入れて、男は笑った。強気に、誇るように。

 身に付けるのは修復の施された神聖な紅の鎧。傍には同様の格好をした翼竜。完全装備のハイトとローズである。

 彼は母船の最下層、出撃口で待機していた。無論、直接宇宙空間に飛び出して戦う為に。

 二度目の無茶。再びの大博打。馬鹿な作戦だと理解した上で、それでも戦意に満ちていた。


 安全地帯から機械を操るだけだったかつての略奪者からすれば、無意味な自殺行為にしか思えないだろう。

 だが至って大真面目だ。戦って、勝利に貢献して、生きて帰るつもりでいる。

 それは、この母船の指揮官も同じである。


「ああ、そろそろ頃合いだな。もう少し引き付けておくから、その間に反対側から叩いてくれ」

「分かった。いつでも行けるぜ」

「は、何が分かったんだか」


 捕虜が馬鹿にしたような口調で口を挟む。粘りつくような嫌悪を伴って、ハイトを否定する。


「言っておくが、前にやったのが成功したのは運が良かっただけだ。なのに、自分の実力だと勘違いしてないか?」

「してないさ。俺の力だけであんな事は出来ない。今度やったら死ぬかもしれないな。……でも、俺は飛ぶ」

「正気じゃない……」

「ありがとよ。最高の誉め言葉だ」


 絶句に対し、ハイトは勇ましく笑う。不安が消し飛ぶように、意識的に。

 自分はあくまで、単なる漁師見習いだった。だからこそあらゆるものに感謝し頼る。その上で、限界を超えた己の全力を尽くすのだ。


「キミの覚悟はいいとして、機器の方は万全か?」

「おう、大丈夫だ。全部見えてる」

「逐次援護はするが……くれぐれも無理はするなよ」

「頼りにしてるぜ。さあ、戦いの始まりだ!」


 声をあげて鼓舞し、威勢よく母船から出撃していった。

 そして飛び込んできた、何度見ても変わらない美しい光景に目を奪われる。自然と笑みが浮かぶ。見て楽しむにも最高の環境。

 戦いで汚すのは躊躇われるが、恩人の願いもまた尊い。己の自由意思で、優先すべきものを選択したのだ。


 戦場は星が煌めく永遠の夜空、今はもう人の踏み込める領域となった宇宙空間。夢と暴力、美しさと恐ろしさ。此処にしか無い価値はあれど、生きるには難しい、力と覚悟を試される場所だ。

 だからこそ、挑む。神聖な夜空に紅い軌跡を刻み込む。


 信頼する仲間の支えを受け、ハイトはローズと共に、この広大な宙を飛び続けるのだ。

 全てを取り戻した、最高の結末を目指して。

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幻想インベイディド 右中桂示 @miginaka

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