3-4 Ginevra de' Benci



───アレクのファンは熱狂的だ。


センピオーネ公園外周コースの西端、オーバルカーブの頂点となる、パーチェ広場入り口の交差点がスタート地点。


そこに並ぶ、2台の車。


内周側、イエローのボディーを黒いツインストライプが貫く、アレクのシボレー・カマロ。


そして外周側、ガンメタリックの表面で荒いラメフレークが煌々と光を反射する、マキシマのスバル・インプレッサ。


そしてその周りを取り囲む、ストリートレースの観衆。


現在ランキング4位と5位がファイナルラップに差し掛かったところだ。


マキシマがローギアでドロドロとしたエンジン音を轟かせながらスターティンググリッドに着くと同時に、それぞれのフォロワーが車の周りを囲い込んだ。


フォロワー数はほぼ同じだが、先日マキシマのほうが若干上回った。


だがそれでも、声援が味方するのはデレクのほうだ。


それが気に入らない。


他のレーサーのように血気盛んでもなければ、レオのような勝利への異常な執着心があるわけでもなく、ヒューガのようなカリスマ性もなく、自分のような野心家でもない。


デレクからはひたすらに穏やかという印象しか受け取ることができないのだ。


そんな素人と何ら変わらぬ人間がストリートレースの世界において、自分とほぼ同じ位置に居る。


分からない、彼のことが。


そして、なぜか彼を認める一面をも自分が持っていることが。


レオにはまだ買った経験がない。


デレクには一度勝ったことはある。


しかしそれでも、彼に勝つビジョンが明確に掴めない。


だから、今日。


デレクとの差しの勝負という最高のステージが用意された今日、このアメリカ車を打ちのめすビジョンが欲しい。


マキシマはインプレッサのアクセルを煽った。


唸るボクサーエンジン、噴き上がるアフターフレイム。


そして撫でる、センターコンソールに配置したニトロのタンク。



《勝負がもつれてる! 2台ほぼ同時にフィニッシュするぞ! モニター越しからでも火花が散ってきそうだ!!!!》



ジジの実況がヒートアップしている。


自分とアレクの背後から迫るレーサーに、今は目を向けない。


マキシマは見た。


隣のデレク、続いて前方のコースを。


勝つ。


勝ってヒューガにバトンを繋ぐ。


そしてそのままヒューガがレオに勝てば。


ストリートレースの新しい王者は、僕だ。



《デレク、マキシマ、同時にスタートだ!!!!!!!》



一思いに離すクラッチペダル、連結するシャフト、前から感じる重力。


インプレッサは4輪から、カマロは後方2輪から、けたたましいスキール音とともに白煙を捲き上げた。


ストリートレースランキング2位、ジェン・マキシマ。


対、ストリートレースランキング3位、デレク・ナトリ。


2台の車が、センピオーネの外周を回り始める。



 

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