3-3 Ginevra de' Benci



───センピオーネ公園、それは放射場に広がるメディオの街並みの中心にあたる、かつての観光地だった。


東西に長い楕円形で、ストリートレースのイベントブースとなるパーチェ広場はその西端にある。


そして真反対の東端には歴史的にも、中世欧州建築学的にも象徴的なスフォルツェスコ城。


北部にはセンピオーネ陸上競技スタジアムがそびえており、それを避けるように道路が這っている。


つまりセンピオーネ公園の外周は、楕円形の上部に三角形を組み合わせたような変則的なオーバルコースだ。


ストリートレースにおいてもメジャーなコースで、この道順を走り慣れているレーサーも多い。


レーサーランキング20位対19位のレースに始まり、現在二つのチームはほぼ拮抗したままレースが進んでいる。


パーチェ広場のステージに大きく陣取るオーロラビジョンの前には観衆が密集。


そしてそれから同広場内の少し離れた場所には、それぞれのチームごとのプレハブにはレーサー達が待機。


東軍とかいうカテゴライズだっただろうか、俺達は。


レオとデレクを始めとした東軍は、プレハブ内に設置された大画面のモニターでレースを観戦していた。



「デレク」


「なんだい?」


「マキシマへの勝算はあるのか?」


「勝算しかないさ」



黒い肌に隆々とした腕。


厳つい身体と顔立ちに威圧感のあるサングラス。


その見た目に対し、デレクの口調は非常に穏やかだ。


上がり症はステージ上だけのようで、低くて落ち着いたその声はいつにも増して安定感がある。



「デレク、マキシマはインプにニトロを積んだらしい。配信で口走ってた」


「それはオレも知っている。ニトロを積んだ日本車は手負いの狼みたいに危険だ」


「じゃあテメエの勝算ってのはなんなんだ?」


「オレもニトロを積んだよ」


「カマロに?」


「ああ」



デレクはカマロを改造する様を毎日のようにガレージから配信していた。


パーツやボディのペインティングから電子工作、さらにはパーツ自体の自作まで、そのDIYの幅は素人の域を超えて広い。


しかし先週のレースから「来週まで配信を休む」という呟きを最後に、配信も呟きも更新がなかった。


その間にしていたことが、何だ?


ニトロの搭載……?



「カマロは元々直線番長だっただろ。『いかにコーナリング才能を上げるか』ってテメエ自身が配信で言ってたじゃねえか」


「よく見てるな、ありがとう」


「うるせえよ」


「レオ、お前にだけいいことを教えてやる。配信を見てくれてたみたいで嬉しかったからな」


「あ? いいこと……?」


「ニトロってのはね、推進力なんだよ。だけどそれが前への推進力だけとは限らない」


「ほう。分かった、テメエのバック走行を楽しみにしとくぜ」


「はははっ、まあ見てなチャンプ。30秒差で勝ってきてやるよ、お前がヒューガに追い越されないようにな」


「ふんっ、差を広げてパーチェに帰ってくるさ」



現在、5位対6位のレース。


いまだ差は狭い。


アレクは巨体を起こし、控室を出た。


アレクのその背中からレオが感じ取ったものは、出所の分からぬ強大な自信だった───。



 

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