第8話
二日後、約束通り二人の最寄りの駅近くにある楽器屋さんへ行った。
お店に入ると、律月はすいすいと進んでいってしまったので、私も楽譜を物色しようと、奥の方へ進む。
十二月だし、クリスマスソングでも買おうかな、と季節のおすすめコーナーへ向かった。サンタやトナカイや雪だるまで可愛らしく飾られている。
どれにしようかとページをめくっていると、思っていたよりも早く律月が一冊の楽譜を手に持ってきた。
『Debussy』と書かれた表紙の冊子をこれにします、と満足そうな笑顔で手渡された。了解、と笑顔で受け取り、ページを開いてみた。
「これ、三曲入ってるけど、どれがいい?」
「それは、紗夜さんにお任せしてもいいかな」
私は、えー、と少しだけ考えてから仕方ないな、と引き受けた。
一昨日と同じくらい嬉しそうに、楽しみにしてるね、と律月は言った。
「ちょっと寄り道しない?」
会計を済ませて楽器屋さんを出たところで、律月に誘われた。私は時間を確認すると、余裕があったので、誘いに乗ることにした。店内と外の温度差で、風邪をひきそうなくらい寒い夜だった。温かい飲み物が欲しくなってくる。
「じゃあ、私がよく行くカフェで」
「うん!」
楽器屋さんから三分ほど歩いた場所にあるカフェは、紗夜がこの町に引っ越してきてすぐに見つけたお気に入りの場所で、よくテスト前の休日に長居させてもらい、勉強場所としても利用している。
流れるBGMや、古民家感のある雰囲気が居心地の良さを作っている。
紗夜が最近よく頼むカプチーノをオーダーすると、律月も同じものを店員さんに伝えた。
「僕、四年くらい前に一回だけ来たことあるな。その時は何頼んだっけ」
「へー。私が昔住んでた町にはこんな居心地のいいお洒落なカフェなかったわ」
「そうなんだ。進学する高校に合わせて引っ越してきたの?」
「まぁ、それもあるけど、実は人間関係にちょっと疲れちゃって。リセットのためもあるかな」
「あー、なんかわかる気がする」
律月はすこし意地悪な表情で、二回ほど頷いた。
「わかるってどういうことよ。」
「あはは。いや別に嫌な意味じゃなくてさ。紗夜さんってあんまりお友達の話とかしないじゃん?あと、私はあんまり人に興味なんかもちませーんって顔してるし」
「そんなこと……。ある」
だよね、と笑いながら律月は言った。
「でも、誰に対しても、そうなわけじゃないから」
意地を張って、つい余計なことが口から飛び出した。
「そっか。ごめんごめん、意地悪だったね」
私の可愛くない発言にも、律月は優しく返事した。
そんなやり取りをしていると、カプチーノが二つ、紗夜たちのテーブルに運ばれてきた。律月は私の分も受け取って、熱いよ、と一言かけてから渡してくれた。
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