フジ

「クロ、私学校に行ってくるから家から出ちゃダメだよ?」


クロはその注意を聞くと何回かコクコクと頷きシロに手を振る。


「行ってらっしゃい...です。」

ガチャと扉を閉めると鍵をかける。

まぁ心配しなくともクロはまだ背が低いから

鍵まで手が届かないのだけれど。


「おはよう!シロ。」


「アカ、おはよう!」


アカこと空音が声をかけてくる。


「あれ?髪切った?」


アカはとても長い髪をお団子にまとめていたのだが、今日は少しお団子のボリュームが減った気がする。


「こわっ、本当にちょっと切っただけだよ?」


「そっかー、でも私アカのこと大好きだからわかっちゃった!」


アカとじゃれながら学校へ着くとクラス内が陰鬱な雰囲気だった。


「どうしたの?」


アカが蒼已蓮瑠あおいれるに聞く。

蓮瑠、通称・アオはアカの幼馴染で彼女に好意を持っている。

アカの頼みであれば大抵のことは教えてくれるし、アカの親友であるシロのことを結構気に入っているようで良くしてくれるのだ。


「わからない。ただ、フジの彼氏が殺されたらしいんだ。あの子とは親しくないからわからないけど。」


アオは暗い表情でそう言った。


フジこと藤山香澄はお金持ちで人気者だ。

毎日違ったブランド品や服を身につけて学校へ来て騒ぎまくる、言うなれば陽キャというやつで、シロやアカとはあまり関わりが無かった。


フジといえば、昨夜殺害した男性がポケットに入れていた写真に写っていた少女だ。


ちょっと絡んでみるか。

そう思ったシロなのであった。




放課後


シロはアカに頼んでフジの連絡先を貰った。

アカは親しくない相手の連絡先も何故か一応持っていて、シロが頼めばいつでも送ってくれる。


『こんばんは、かな?

同じクラスの白鷺叶絵です!覚えてる?

空音から連絡先もらったんだ!

いきなりだけど、貴方とお友達になりたくて。

今日、私の家に来ませんか?』


フジはシロがどう接してほしいかを尋ね回った際には欠席だったため、口調をどうしようか迷ったが無難に丁寧にそれでも同級生に接する丁度いい口調で行くことにした。


返信はすぐに来た。


『クラスで人気者の貴方からお友達なんて

嬉しいわ。私も丁度思っていたのよ。

いいわ、駅で待ち合わせましょう?』


シロとフジの最寄りは一緒なので何駅なのかはすぐにわかった。



駅にて


「こんばんは!」


「えぇ。近くで見ると美しいんですね、白鷺さんって。」


「シロって呼んで!フジ!」


「わかったわ、シロ。」


「聞いたよ、彼氏さん亡くなったって。」


「え...」


フジは困ったような顔をした。

まぁそうなるだろう。

学校が終わったあとにわざわざ呼び出されてそんなことを言われるだなんて。


「まぁ、そうよ。私の彼氏。」


「あ、ここが私の家。」


駅から徒歩五分のシロの家の扉を開け、フジを入れシロは後ろ手で扉を閉めた。


「ここには小さな子供がいるから大きな声出さないで欲しいのだけど。」


「え...?」


「ダメだよ、あのおじさんと、そういうことしてたんでしょ?」


「あのおじさん...って...。」


「サラリーマン風のおじさん。

貴方からは少しお酒の匂いがすると思ってたの。ずっと前から。

同棲してたんでしょ?

ダメだよ、未成年がいるのに泥酔するようなおじさんとそういうことしちゃ。」


「なんで...」


「本当にそういうことしたのかは知らないけど、私は迫られたから。あの人に。」


「どういうこと?」


シロは写真をフジに見せた。

フジの顔はどんどんと恐怖に塗り替わる。


「まさか.....」


「そのまさか。私だよ?

貴方の彼氏を殺したの。」


フジは床に膝をついた。

そして、クスクスと笑った。


「なるほど...そういうこと。

ありがとうね、シロ。あいつを殺してくれてさ」


フジはこれ以上ないくらい腹を抱えて笑い出した。


「あいつは!私の友達の義父なの!

その子が虐待をされていたから私があいつを

通報するって言ったの!

でも、あいつそれに気づきやがって...。

私に...そういうことしたの。

それで...彼女になってくれたら私もその子達家族にも優しくするって約束をしてもらった。けどね!あいつは私があいつの彼女だって言わないと殴った、蹴った。

言ったって酷いことをしたの。

だから、殺してくれてありがとう、シロ。」


シロはそのお涙頂戴な話を爪をいじりながら聞いて、終わったころにフジの方に向き直り


「終わった?」


と尋ねた。


「お、終わった。」


不愉快そうにはしたものの、殺人犯の目の前で怒り出す勇気もないらしく素直に宣言した。


「そっか、じゃあ貴方も死のう?」


「え....どうして?」


「だって、結果からしたら虐待してた最低なおじさんに抱かれた女でしょ?

別に私、感動話に興味もないし逆に嫌い。

過程なんかどうでもいいんだよ、結果が大切、貴方が独りよがりな偽善者だって結果が。」


「友達を助けるためにやった私のどこが偽善者なの!?」


「本物の善人はそんなこと聞かないところかな」


シロは何の感情も込めずに即答した。

フジは怒りに拳を握りしめた。


「だってその理屈なら、私も善人だよね?

一緒に暮らす子を守るために人を殺すんだから。」


そう言って、おじさんを刺したの同じ包丁で

フジの胸を刺した。


「し...ろ...!」


怒っているのか苦しんでいるのか怒鳴ったような声を上げたフジはその場に倒れる。

痛みに身をよじる余裕もないようでひたすら胸を抱えてうずくまる。


「何?」


「あんた...なんなの...」


「貴方の彼氏が言うところの異常者。」


そう言ってもう一度同じ場所に包丁を突き刺した。


声のような音が聞こえて、フジはぐるりと

白目を剥いた。

血溜まりと動かぬ体が彼女の死を物語っている。


「すごい...声と音聞こえたです。

シロ、大丈夫です?」


「うん!平気だよ!この子、今日のご飯ね」


「ありがと...です。」


クロは座り込みフジの手をかじり始める。

ジュクジュクと血液が溢れ出し、クロの口に付着していく。


「美味しい?」


「ちゃっと...苦い...です。」


「甘い方がいい?」


コクっとクロは頷いた。


「どんな子が甘い?」


「良い人間...だから、殺すの可哀想。」


「じゃあ、やっぱこの子嫌な子だったんだね。」


「...?」


「クロはわからなくてもいいよ。」


シロは笑みを作りクロの頭を撫でる。

クロは嬉しそうに目を瞑った。









スマホを充電しようとしていた時のことだった。


家の壁に何か黒い四角いものが付いているのを見つけた。


「これは...盗聴器...」

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