第7話 馬車上にて① 魔素窟への誘い

 聞いておかなければならないことがあった。 

「タルヴィッカ様。お話いただける範囲で構わないのですが、魔導剣士という職についてお教えいただけますでしょうか?」


「もちろん、構いませんよ。わたしが知りうる限りとはなりますが、お話いたします……はじめに望まれて生まれたわけではないこの職の成り立ちについてもお話することにはなりますでしょうが」


 魔導剣士という職が生まれた経緯は、貴族院で辺境の噂話としては聞いていた。けれども、わたしは魔導剣士を目指すタルヴィッカ様からの話を聞きておきたい。


「辺境の地で発生し続ける魔素窟デモナスフィアに相対するための魔導士が、魔導剣士ということはご存知ですよね?」


「はい、封じることができない魔素窟デモナスフィアのための魔導士ということですよね」

 魔素により地を荒らす魔素窟デモナスフィアは、神殿関係者によって封じられるのが本来である。けれども、近年は、封じることができない魔素窟デモナスフィアがあるのだという。

 

「封じられず、開いたままの魔素窟デモナスフィアが、内なる魔壁によって地への干渉を防がれていることはご存知ですね?」

 

 王族の手による魔晶石から構築される魔壁が、魔素窟デモナスフィアを囲い込んでいることは、貴族院のみんなが知っているところだった。

「はい。……それでも、魔導剣士たちが魔素窟デモナスフィアに赴く必要があるということなのですよね?」

 

 どうしても聞いておきたいことだったので、質問に質問で返してしまった。

 

 タルヴィッカ様は、一息おいてから、わたくしを真っ直ぐに見据え

魔素窟デモナスフィアでの魔導剣士のことを知るためには、一度、魔素窟デモナスフィアに入ってみることが良いのでは、と考えます」

 と仰った。

 

 タルヴィッカ様の目はおきれいね、と別のことを考えてしまっていたわたくしは、『魔素窟デモナスフィアに入ってみる』ことの意味を一拍遅れて把握した。

 

 それって、魔素窟デモナスフィアで2人きりになれるという……と喜びかけたものの、ひょっとしたら、勘違いお嬢=わたしを放置プレーしてお灸を据えようということなのかも?!……とも思えてきた。

 

 魔素窟デモナスフィアに入るという発想がなかったわたしは、少し混乱してしまった。

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