ゲームその4 『白雪姫と毒リンゴ』第7話

「どうだ、見たか! 毒リンゴと小人だ! 白雪姫は、毒リンゴを食って死んだ! ハーッハッハッハッ……ハァッ? なんで、なんで小人カードなんだ!」


 どなり声をあげるルドルフ大臣に、ワオンがへへっと照れたように笑います。ハッとして、大臣はギリギリと歯ぎしりしながら、ワオンをどなりつけたのです。


「おのれっ、このオオカミめ、生意気にもこのわしをハメおったな! あの動きは、勝負カードを出そうとする動きだったのか!」

「そうさ、さぁ、大臣、これで毒リンゴカードはなくなったぞ! おいらたちの勝ちだ!」

「クッ……、ふん、なにをバカなことを。まだわしは負けておらん。次に小人カード同士をめくればいいだけじゃないか! ……小娘、さっさとカードをふせろ!」


 大臣にどなられても、ルージュは笑みを絶やさずカードをふせます。ワオンもふせて、大臣もバンッとテーブルにカードをたたきつけました。


「さぁ、それじゃあサイコロを……いや、待て、ちょっと待て」


 サイコロをつかむと、ルドルフ大臣がルージュとワオンにいいました。ルージュがスーッと、冷ややかな視線を大臣に送ります。


「どうして? だってあとはサイコロを投げるだけじゃないの。それなのにどうして待たないといけないの?」

「そ、それはその……あれだ、ちょっと腹の具合が悪くなったんだ。ちょっと待ってろ!」


 それだけいうと、大臣は立ち上がって急いで黒魔女の像のうしろへかくれたのです。ルージュはムッとまゆをあげました。


「どうせなにか悪だくみしてるんでしょ? 早く戻りなさいよ!」

「う、うるさい! 黙ってろ、腹が痛いんだ!」


 そういうと、ルドルフ大臣はぎゅうっと目をつぶって、ぶつぶつとなにかをつぶやいたのです。すると……。


『ルドルフよ、お前はなにをやっているのだ! わらわを解放するという言葉はうそだったのか?』


 突然ルドルフ大臣に、黒魔女の声が聞こえてきたのです。ですが、ワオンもルージュもきょとんとしています。二人には聞こえていないのでしょう。大臣も目をつぶったまま頭の中で返事をします。


『めっそうもございません、黒魔女様。このルドルフめは、常に黒魔女様のために動いていますです、はい』

『口先だけではなんとでもいえるからな。……それで、なにゆえに儀式の最中にわらわを呼んだのか?』


 骨まで凍ってしまいそうな、黒魔女の言葉に、ルドルフ大臣は「ヒッ!」と思わず声をもらします。ルージュが立ちあがりました。


「ちょっと、いったいなにをしてるの? まさかあなた、黒魔女となにか話をしてるんじゃないでしょうね?」

「ま、待て、違うんだ! 腹が痛いといっただろう! 話しかけるな!」


 苦しい言い訳をしながら、大臣は頭の中で黒魔女とも話をします。


『お願いでございます、黒魔女様! どうかわたくしめに、今一度黒魔女様のサイコロを操る魔法をお授けください!』

『なんじゃと? 愚か者が! あの魔法を授けるために、わらわがなけなしの魔力を犠牲にしたことを忘れたのか! それなのに、もう一度じゃと? 図に乗るのもたいがいにせい!』

「早く席につきなさいよ! あとはサイコロをふるだけでしょ!」


 黒魔女とルージュの二人に責められて、大臣はがりがりと頭をかいて思わずどなったのです。


「うるさいぞ小娘が! ええい、わしに近寄るんじゃない!」


 腰に下げていた剣を抜き、大臣はへっぴり腰のままブンブンふりまわしたのです。さすがのルージュも「きゃっ!」と悲鳴を上げてあとずさります。


「おとなしく待ってろ! どいつもこいつもわしのことをバカにしおって!」

『……ルドルフ、それはわらわに向けていっているのか?』

「めめめ、めっそうもございません! ……あ、いや、違う、なんでもないんじゃ」


 頭の中で答えたつもりが、どうやら口に出していたのでしょう。ルージュだけでなくワオンも立ち上がり、大臣にじりじりと近寄ります。


「ルージュちゃんのいう通りだよ、あとはサイコロをふるだけだ、早く席につけよ!」

「待て、待てといってるだろ! くっ、黒魔女様ぁ!」


 情けない声をあげるルドルフ大臣に、黒魔女は半ばあきれたように答えました。


『そなたのような小物に、命運を託したわらわが間違いであった。……よいじゃろう、ルドルフ。そなたには今一度、サイコロの目を自由にする魔法を授けよう。じゃが、そなたに与えるはず約束であった、永遠の命についてだが……。それに関しては取りやめとする』

『あぁ、ありがとうございます、黒魔女様! ……えっ?』


 ワオンもルージュも、ぴたりと動きを止めました。突然大臣の顔から、一切の表情が失われたのです。まさにハトが豆鉄砲を食らったかのような顔のルドルフ大臣に、黒魔女は追い打ちのように笑い声をあげます。


『どうしたのじゃ? 聞こえなかったか? 今いった通りじゃ。そなたには永遠の命など与えん。……せいぜい寿命を五年か十年、延ばしてやるだけだな』

『そんな……約束が違います!』

『ならばどうする? まさかとは思うが、そこのオオカミと小娘と結託して、わらわを封印しようとするつもりか? それでもいいが、そこの二人がそなたの罪を黙っているだろうかな? 女王にそなたの罪を告げて、そなたは反逆罪で捕らえられるじゃろう。……よくて一生牢屋、悪ければ処刑されるだろうな』

『ぐっ……!』


 ルドルフ大臣の顔が、恐怖と怒りでゆがみます。じりじり近づくワオンとルージュに、再び剣を向けてくちびるをかみしめると、ルドルフ大臣は「くぅぅっ!」としぼりだすような悲鳴をあげてどなったのです。


「わかった、寿命を延ばすだけでいいですから、わしに魔法を!」

『よかろう。今度こそうまくやるのだぞ!』


 そのとたん、ルドルフ大臣の右手が、真っ黒い光に包まれたのです。驚きに目を見開き、ワオンとルージュが固まってしまいます。大臣も持っていた剣を落として、「ぐぁぁぁぁっ!」とすさまじい悲鳴をあげて右手を押さえます。


『さぁ、我が魔法を受けとるがいい!』

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