ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第11話

「はぁ? 動けなくなるだって? お前までなにをいってるんだよ。だってどんどんわらの家を壊して、真ん中のほうへ行けばいくらでも動けるじゃないか」


 プリンを信じられないといった表情で見るブーリンでしたが、プリンは興奮気味にウリリンが指さした山を示します。


「だってほら、見てよ! こことここにレンガの家を建てたら、ワオンさんのオオカミトークンの道をふさげるよ! つまり、真ん中のほうへ行けずに、レンガの家にふさがれるんだ!」

「いやいや、そんなことないだろ! だってここのすき間を通っていけば」


 あわあわいうブーリンでしたが、ルージュが首をふって口をはさみました。


「すき間を通ったりはできないわ。オオカミトークンは、辺で重なっているタイルにしか移動できないもの。もし頂点が重なっているタイルにも移動できるんなら、そのすき間を通ることもできるかもしれないけど、辺なら無理だわ」


 三角形を指でなぞりながら、ルージュが説明しました。まだ口をパクパクするブーリンに、ウリリンは続けて説明します。


「さらに、閉じこめられた中にあるのは、わらの家が3つと、オオカミトークンが出てきた森、つまり荒れ地が1つだけだよ。つまりオオカミトークンは、あと3つしか家を壊すことができないってわけだ」

「でもよ、家を1軒壊すごとに3点入るだろう? だから3つ壊したら9点だ。それに、オオカミトークン2つで14点、全部合わせて23点も入るんだぜ! わしらの家は、今全部で、えーっと……19軒しかないだろう? 4点差で負けてるじゃないか!」


 家トークンを数えてから、青い顔でブーリンがいいます。しかし、ウリリンは首を横にふって続けました。


「それは今の時点だろう? ワオンが建物を壊すまで、あと3ターンある。その間におれたちで建物を建てていけばいい。ブーリン兄ちゃんとプリン兄ちゃんが、このターンからレンガの家を建てるとしても、おれがこの手番からどんどんわらの家を建てて、ブーリン兄ちゃんとプリン兄ちゃんも、レンガの家が建ったあとにわらの家を建てれば、3軒分家を壊されるとしても……うん、ぎりぎりで1点、おれたちが勝ってるよ」


 指でトントンッと机をたたきながら暗算して、ウリリンはふーっとため息をつきました。それを聞いて、ブーリンがブーッと思わずほえるように鳴きました。


「よっしゃあ! ウリリン、お前やるじゃないか! とりあえずじゃあこれで、わしらは食べられずにすむんだな。そして一位はわしだ! いくつか家を壊されても、まだまだ大量にあるからな。ウリリン、わしに感謝しろよ」


 ブーブーッとうれしさのあまり鳴きまくるブーリンでしたが、ウリリンは申し訳なさそうに口をはさみました。


「いや、あの……悪いけど、子ブタ村のプレイヤー同士で勝ち負けを決めるときは、家の数だけじゃなくて、家の種類も得点にからむから、多分ブーリン兄ちゃんは一位じゃないと思うよ」


 先ほどまでブーブーッと喜びの鳴き声をあげていたブーリンが、ピタッと止まってしまいました。しばらく固まっていたあとに、ようやくウリリンをふりかえって問いつめます。


「おい、それ、どういうことだよ?」

「うん、とりあえずさっきいったような動きをすれば、おれの計算だと多分一位はプリン兄ちゃんになると思うんだよ。だってプリン兄ちゃんは、最初に5軒も木の家を建てていたんだからさ」


 ウリリンの言葉に、ブーッと非難するように鳴いて、ブーリンが食い下がります。


「だけどよ、わしのほうがわらの家の数は多いんだぜ!」

「でも、子ブタ村のプレイヤー同士で勝ち負けを決めるときは、わらの家は1点にしかならないよ。それに対して、木の家とレンガの家はそれぞれ2点ずつだ。だからブーリン兄ちゃんのほうが家が多くても、点数でいえばプリン兄ちゃんのほうが上になるんだよ」


 ウリリンの説明がよほどショックだったのでしょう、ブーリンはよろよろとあとずさって、ドサッといすに座りこんでしまいました。さすがのウリリンも気の毒に思ったのでしょう、えんりょがちにつけくわえます。


「あ、でも、おれの計算が合ってたら、おれとブーリン兄ちゃんは同点だよ。ビリじゃないんだし、いいだろ?」

「ビリじゃないからいいだと? バカッ! わしは世界一の大工を目指しているんだ! たとえゲームでも、家を建てるゲームでわしが一番になれないなんて、絶対あっちゃいけないんだ!」


 ウリリンになぐさめられたのがよっぽど腹にすえかねたのか、ブーッ、ブーッと何度も鳴いて、それからブーリンはギロッとフィールドをにらみつけたのです。


「……こうなったら、レンガの家なんて建てないぞ! ウリリンのいう通りになんてするもんか! もっとうまいやりかたを考えて、わしが一番になってやる!」


 わらの家トークンをつかんでフィールドをねめつけるブーリンを見て、ウリリンがあわてて止めに入りました。


「ちょっと、ダメだよやめて! もし今山にレンガの家を建てて、オオカミトークンの進路をふさがなかったら、もう囲むことはできないんだぞ! そうなったらおしまいだ! どんどん家を壊されて、猟師トークンを手にするチャンスすらなくなるよ。それでどんどん差をつけられたところで、最後のオオカミトークンを出されて終わりだ。ブーリン兄ちゃん、落ち着いてよ!」

「うるさいうるさい! わしは一番にならなくちゃ気がすまないんだ! ……一番になれないんなら、わしはワオンに食われたほうがましだ!」


 わらの家トークンをフィールドに置こうとするので、ウリリンもとうとう立ち上がってその手をがしっとつかみました。


「どうしてそんなに意地っ張りなんだよ! そんなこといって、もし本当に食べられちゃったらおしまいなんだぜ! 勝ち負けどころか、死んじゃうんだよ!」

「離せ、わしは自分で考える! もっとうまいほうほうが絶対あるはずだ! わしが一番になる方法が、絶対あるはずなんだ!」


 取っ組み合いのけんかの一歩手前まで来ている二人に、ワオンもルージュもおろおろするしかありませんでした。


「どうしよう、どうしよう、どうしよう! あぁ、おいらがこんなゲームをしようっていったばっかりに……」


 頭をかかえるうちに、ワオンはプリンと目がありました。プリンもやっぱり、二人の迫力に押されて固まっている……と思ったのですが、プリンは眉間にしわを寄せて、ありったけの大声で二人をどなりつけたのです。

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