ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第12話

「誰が一番かなんて関係ないよ! ぼくたちはチームだ! あとちょっとでワオンさんに勝てる、チームが一番になれるんだ! だったらぼくたちみんなが一番じゃないか!」


 突然声を張り上げたプリンに、さすがのブーリンとウリリンもビクッとなって腕を離してしまいました。しかし、プリンはもう止まりませんでした。


「だいたい、ぼくが一位だって? そんなの違うよ、だってぼく、ただ木の家を建ててただけだよ! ブーリン兄ちゃんみたいに、たくさん家を建てて猟師トークンを手に入れたりしていない。ウリリンみたいに、いっぱい考えて勝てる道筋を見つけたりしていない。ぼくはなんの役にも立っていないよ。……だからぼくは一位なんかじゃない。一位は、ブーリン兄ちゃんとウリリンの二人だよ」

「いや、でもよ、点数じゃ、お前が一位になるんだろう?」


 いつもはおどおどしているだけの、プリンの迫力に押されて、ブーリンがこわごわ質問します。しかし、プリンはブンブンッと首をふって答えました。


「ぼくはなんにもしてないよ。……それは、ゲームだけじゃない。大工の仕事だって、ぼくはブーリン兄ちゃんとウリリンのことを見てるだけで、なんにも役に立ってなかった。ブーリン兄ちゃんみたいに、仕事が早いわけじゃないし、ウリリンみたいに、丁寧な仕事はできないよ」

「プリン……」


 プリンはさらにありったけの思いを口にしていきます。


「だけど、ぼく、二人といっしょに仕事していたい! 二人といっしょのチームにいたい! だって、二人ともすごい大工さんだから、いっしょに仕事しててとても楽しいから……。だから、こんなところで食べられて終わりだなんていやだし、二人がケンカしているのを見るのもいやなんだ! 二人とも、ぼくの大好きな兄弟なんだから!」


 最後はもう、のどがはりさけてしまいそうなくらいの勢いでさけぶプリンを、ブーリンもウリリンもなにもいえずに見ていました。ですが、やがてブーリンは、コトッとわらの家トークンを手元に戻しました。そしてレンガの家トークンを手に取り、だまってウリリンが指示した山へ置いたのです。


「ブーリン兄ちゃん……」

「勘違いするなよ、ウリリン。わしはお前に負けたわけでもないし、今でも仕事には手際の良さが大事だって思っている。……だが、このゲームはお前のいうことを聞くよ。わしも食べられたくはないし、食べられたらわしの夢が、世界一の大工になる夢がかなわなくなってしまうからな」


 へへっと笑うブーリンを見て、ウリリンはゴシゴシッと目元を腕でこすりました。そして一言、「ありがとう」とだけいって、プリンを見ました。


「それじゃあ、さっきおれがいった通りに、レンガの家を建てていってくれ」


 さけび疲れて肩で息をしていたプリンは、ウリリンの、そしてブーリンの顔を見ていきます。しばらく言葉を探して迷うプリンでしたが、見つけたのはウリリンと同じ言葉でした。


「ウリリン、ブーリン兄ちゃん……ありがとう」




 結局『子ブタ村と目覚めるオオカミ』ゲームは、ウリリンが予想した通り、子ブタ村プレイヤー側がなんとか1点差で勝つことに成功したのです。


「よっしゃあ! さぁ、この性悪オオカミめ、約束通りルージュちゃんは返してもらうぞ! それにお前は、この森から出ていってもらうからな!」


 ブーリンが鼻息荒くワオンを問いつめますが、ウリリンがあきれたように止めました。


「ブーリン兄ちゃん、もういいってば。ワオン……さんも、お芝居はもういいだろう?」


 ウリリンの言葉に、ワオンは「おぉっ」と思わず声をもらしました。


「なんだ、ウリリン君は気づいてたのか。がんばって悪いオオカミを演じてたのに、気づかれてたなんて」

「ワオンさんったら、全然悪いオオカミになんてなれてなかったじゃないの。ま、でも、そこがワオンさんのいいところなんだけどね」


 うふふと笑うルージュを、ワオンもジト目で見かえします。


「それをいうならルージュちゃんもじゃないか。人質役なのに、縄をほどいてほしいなんていうし、ケーキと紅茶を楽しんでたし。あれじゃあおいらががんばって演技しても、バレちゃうよ」

「あら、わたしがおとなしくしてても、どうせバレてたわよ。あ、そうだ、わたしクルミとはちみつのマフィンが食べたいわ。それに紅茶……ううん、ミルクティーをいただけるかしら?」


 ちゃっかりお願いするルージュを、目をぱちぱちさせて見るワオンでしたが、やがてアハハハと笑ってうなずきました。


「さ、ネタばらししたところで、みんなも飲み物のおかわりはどうだい? それに今度は、ルージュちゃんがオオカミプレイヤーでやってみようか? おいらとマーイ、ブラン君の三人が子ブタ村のプレイヤー側でやったときは、全然勝てなくて大変だったんだよ。だけど、君たちの今のチームワークだったら、ルージュちゃんにも勝てるんじゃないかな?」


 ワオンにいわれて、三人はお互い顔を見合わせましたが、すぐに照れたように笑い合ったのです。ワオンのおとぎボドゲカフェに、みんなの笑い声がひびきわたりました。

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