ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第10話

 うれしがっているところに、ウリリンが冷静につけくわえます。ブーリンのほくほく顔がすぐに固まってしまいました。


「負ける? どうしてだよ?」

「ブーリン兄ちゃん、一つだけ見落としていることがあるんだよ。……オオカミトークンは、動かせるだろう? そしておれたちの建てた家を壊すことができる。つまり、ワオンの点数は14点で止まるわけじゃないんだ」


 ウリリンの言葉に、プリンはもちろん、ブーリンの顔からも血の気が引いていきました。


「あ、あ、そうか……! でも、でもよ、わしが猟師トークンを手に入れたみたいに、お前かプリンが10軒建物を建てて、猟師トークンを手に入れたらいいじゃないか!」

「いい考えだけど、ワオンがそれを許すと思う? 今、プリン兄ちゃんが5軒でおれが3軒建物を建てている。だから、最速で猟師トークンをもらうには、プリン兄ちゃんがあと5軒家を建てないといけない。つまり、あと5ターンもかかるんだよ。だけどさ、その間にワオンがプリン兄ちゃんの家を壊したら、プリン兄ちゃんが10軒建物を建てる前に、おれたちの負けになってしまうよ」


 ウリリンが熱っぽくしゃべるので、ブーリンの顔がどんどん険しくなっていきます。プリンもおろおろしながら、フィールドとウリリンの顔を交互に見ます。


「でもさ、それじゃあいったいどうすればいいの? このまま負けるのをじっと見てるしかないの?」


 心配そうに聞くプリンに、ウリリンは首を横にふりました。


「いいや、大丈夫。おれに考えがあるんだ。だからプリン兄ちゃんに待ってもらったんだ。プリン兄ちゃん、次は木の家じゃなくて、ここにわらの家を建ててくれ」


 ウリリンが指さしたのは、ウリリンの手前側、ブーリンがわらの家をたくさん建てたところのすぐ近くでした。目をぱちくりさせるプリンに、ウリリンは説明します。


「ワオンがプリン兄ちゃんの家を壊そうとするなら、できるだけばらけて建物を建てたほうがいいだろう? だからここなんだ。うまくばらけて建物を建てて、オオカミトークンをたくさん動かすんだよ。そうすれば、その間に10軒建てられるかもしれない」

「なるほど、そうか! それならワオンさんも、移動するのに時間がかかって、猟師トークンを手に入れるチャンスが増えるってわけだね」


 プリンはさっそく、木の家トークンではなくわらの家トークンをつかんで、ウリリンが指示した平地に置きました。これでプリンの家は6軒になります。そしてウリリンの手番ですが、まだレンガの家に時間トークンが2つ残っているので、それを1つ取り除きます。そして再びオオカミプレイヤーであるワオンの手番になります。


「ふうむ、ウリリン君はうまい手を使ったね。プリン君の家を壊していきたいから、プリン君の家の近くにオオカミトークンを置きたいけど、プリン君の手前側は、ほとんど森が埋まっていてもう置けないんだよなぁ。それにばらけて家を建てられたら、移動するのに時間がかかって、しかも途中にそんなに家がないから、あんまり点数も稼げない。これは困ったぞ」


 ワオンもウリリンのように、フィールドをじっとながめて考えこみます。ワオンだけでなく、ルージュもやはり同じようにフィールドを見て考えています。


「……それなら、ちょっと距離はあるけど、途中でたくさんわらの家を壊せる、こっちの森にオオカミトークンを置いたほうがいいかもだな」


 最終的にワオンが選んだのは、ウリリンの手前側にぽつんと残っていた森でした。最初に、ウリリンがキーとなるだろうと予想していたあの森でした。その森のまわりには、ブーリンが建てたわらの家がたくさんあり、その外側に、いくつかウリリンの建てたレンガの家があります。ブーリンが悲鳴をあげました。


「うわぁっ! そこはやめろよ! わしがせっかく建てた家を壊すな!」

「ごめんね、ブーリン君。でも、これもゲームだから、悪く思わないでよ」


 ワオンはへへっと得意げに笑い、ウリリンの陣地にある森にオオカミトークンを置いたのです。これにはブーリンだけでなく、プリンも「ああっ!」と悲鳴をあげます。


「まずいよ、ウリリン、このままじゃブーリン兄ちゃんのわらの家も壊されて、その先にあるぼくの家も壊されちゃうよ!」

「おい、ウリリン、お前のせいでわしの家が標的にされたぞ! どうしてくれるんだ!」


 プリンとブーリンがわめきますが、ウリリンはあわてるどころか、にやりと笑ってワオンを見たのです。


「……よかった、どうやらひっかかってくれたみたいだね」


 ウリリンの自信に満ちあふれた顔を見て、ルージュもくすっとほほえみました。


「ということは、やっぱりウリリン君は気づいていたみたいね」

「えっ、ルージュちゃん、いったいどういうことだい? ウリリン君も、いったいなにをいっているんだ? だってこのままおいらがどんどん家を壊していけば、それで勝ちになるんじゃないのか?」


 目をぱちくりさせるワオンでしたが、ウリリンはその質問には答えず、ブーリンに目を向け指示したのです。


「ブーリン兄ちゃんは、そこの山にレンガの家を建ててよ。プリンはそのとなりの山だよ」


 これにはプリンはまん丸い目をきょろきょろさせて、首をかしげてしまいます。しかし、ブーリンはブーッと怒りに満ちた鳴き声をあげて、思わずウリリンにつめよります。


「お前、この期に及んでまだレンガの家なんか建てさせようとするのか! このままじゃわしらみんな食われちまうんだぞ! そうなる前に、少しでもたくさん家を建てないといけないっていうのに、なにをのんきなことを」

「ブーリン兄ちゃん、落ち着いてよ! 大丈夫、二人が今おれがいったところにレンガの家を建ててくれたら、それだけで勝てるんだよ! 本当だ!」


 ブーリンにつめよられても、ウリリンも一歩も引かずに声を荒げます。二人の剣幕に押され、おろおろしているプリンでしたが、フィールドを見てから思わず「あっ!」と声をあげたのです。


「待って、これ、オオカミトークンが動けなくなるぞ!」

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