ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第2話

「ブーリン兄ちゃんも、ウリリンも、大工の腕はすごくいいんです。ブーリン兄ちゃんはすごいスピードで工事を仕上げていくし、ウリリンはとっても丁寧な仕事をするんです。でも、二人とも自分の考えを曲げないから、いつもケンカばかりで……。仕事も協力しないから、最近はお客さんからも苦情をもらうことがあるんです」

「へぇ、どんな苦情を?」


 ワオン特製の、メープルシロップをたっぷり使ったプリンを食べながら、プリンは目をふせて続けました。


「ブーリン兄ちゃんには、工事のあとが雑だって。ウリリンには、時間がかかりすぎてて、ちっとも工事が終わらないって。……昔は、ブーリン兄ちゃんがドンドン工事をしていって、それをウリリンが最後のチェックをするってしてたから、そんな苦情もなかったんですけど……」

「なんでそんなに、ブーリンさんは工事を急ぐんだろう?」


 ワオンの質問に、プリンは紅茶を一口飲んでから答えました。


「ブーリン兄ちゃんは、世界一の大工さんになりたいっていっているんです。だから、少しでも仕事をこなして、どんどん有名になりたいって思ってるんです。だから仕事してもやりっぱなしで、ウリリンがチェックするのも嫌がるようになって……」

「なかなか大変そうだなぁ、アチッ」


 ホットミルクを舌でぺろっとなめて、マーイが顔をしかめます。ワオンがくすっと笑って、それからレモンティーをゆっくりと飲みました。


「だから、プリン君は二人に仲良く協力するようになってほしいんだね?」

「はい。二人は大工仕事の職人なんですけど、ぼくはお会計や、そのほか事務仕事担当で、工事はほとんどしないです。でも、二人がすごい大工さんだってことは知ってるから、みんなから苦情をいわれるのが、くやしくって……。二人が協力すれば、絶対世界一の大工になれると思うんです。だから、なにか仲良くなれるようなボードゲームってないかなぁって、ワオンさんに聞きたかったんです」


 プリンの問いかけに、ワオンは「なるほど」とつぶやき、それからちょっと考えこみました。


「そうだなぁ、仲良くなるためには、やっぱり協力プレイをするゲームがいいと思うけど……あ、そうだ」


 ワオンはティーカップを置いて立ち上がり、ゲームが置いてある棚から、箱を一つ持ってきました。三匹の子ブタと、おどろおどろしいオオカミの絵が描かれています。


「これ、この前においらとマーイ、そしてルージュちゃんとブラン君の四人でプレイしたんだけど、面白いし協力プレイが楽しかったから、オススメかなって思ったんだけど、どうだろう?」


 ルージュとブランは、ワオンのおとぎボドゲカフェによく遊びに来る、人間の双子の姉弟でした。特にルージュは、おとぎの森一番の美少女で、森じゅうにファンがいるほどかわいい女の子だったのです。


「あぁ、そいつはけっこうおもしろかったよなぁ。だけど、ルージュちゃんがオオカミプレイヤーしてたときは、おれたちコテンパンにされちゃったんだよな。今度はリベンジしたいけど、ルージュちゃんはどのゲームも強いからなぁ」


 マーイの言葉にうなずきながら、ワオンが箱を開けました。中には三角形のタイルがたくさん、そして赤、青、黄色にぬられた、いろんな形の家のコマが、やっぱりたくさん入っていました。プリンは目をぱちくりさせます。


「これ、どんなゲームなんですか?」

「これはね、『子ブタ村と目覚めるオオカミ』ってゲームだよ。けっこうおもしろくって、協力プレイも楽しめるし、すごいハマると思うよ。なによりプリン君たちにピッタリだと思うよ、だってこれは、どんどん家を建てていくゲームだからさ」


 プリンの黒くまん丸い目が、きらきらと輝きはじめました。身を乗り出して、ゲームとワオンを交互に見ます。


「家を建てていくゲームだなんて、すごい、面白そうです! どんなルールか教えてください!」

「そうだね、それじゃあ教えて……あ、そうだ!」


 ワオンが声をあげて、それからにやにやするのを見て、プリンはくびをかしげました。


「どうしたんですか?」

「いや、そのままこのゲームをしても、もちろんいいだろうけど、せっかくだからさ、ちょっと一芝居打ってもいいかなって思って。あのね……」


 いたずらっ子のような顔で、ワオンはプリンとマーイに、ごにょごにょとなにか話をしていくのでした。




「ボードゲームにピッタリの、机の大きさを調べに、おれたちもボードゲームを体験してみよう……か。プリン兄ちゃん、それただ単に、兄ちゃんがボードゲームしたかっただけじゃないの?」


 ワオンのおとぎボドゲカフェに向かいながら、ウリリンがじろっとプリンを見つめます。プリンはえへへと照れたように笑いました。


「ま、もちろんそれもあるけど、でも、やっぱり自分たちで体験してから、リフォームしたほうがいいかなぁって思ってさ」

「ふん、屋根と机をさっさとぬるだけでいいっていうのに、そんなことまでしてたら、本当に時間ばっかりかかると思うぞ」


 プリンのとなりで、しかめっつらをしたブーリンがぶつぶついいます。ウリリンがブーリンをにらみつけました。


「あ、ほら、ちょっと待ってよ、そろそろおとぎボドゲカフェが見えてきたよ」


 ケンカになりそうだったので、プリンがあわてて二人の間に入っていいました。そして指さした先には、ワオンのおとぎボドゲカフェが見えています。


「うーん、やっぱり遠くから見たら、屋根や壁をぬりなおしたいって思うのはわかるな」


 ウリリンがぽつりとつぶやきました。白と茶色のしま模様の屋根に、黒くぬられたシックな外観は、喫茶店としてはとてもおしゃれな感じです。でも、ボードゲームで遊べる『ボドゲカフェ』としては、少し遊び心がないように見えます。


「とりあえずトランプやらチェスのコマやらを壁に描けば、ボドゲカフェっぽくなるんじゃないのか? わしはゲームに詳しくないけど、そんなもんだろう」


 ブーリンが早口でいいました。今にも仕事にとりかかりそうな様子に、プリンが思わず笑ってしまいました。


「ブーリン兄ちゃん、今日は仕事じゃなくて、遊びだから、もっとリラックスしなよ」

「なんだと、バカいうなよ、わしはいつでも仕事一色だ! ホントはボードゲームなんて遊んでるひまないんだが、お前がどうしてもっていうからきてやってるんだぞ。だいたいお前たち二人は」


 お説教を始めそうになるブーリンを見て、プリンは急いでワオンのおとぎボドゲカフェのドアを開きました。カランカランッと鈴の音が鳴って、中から「助けてぇっ!」と女の子の悲鳴が聞こえてきたのです。

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