ゲームその2 『子ブタ村と目覚めるオオカミ』第3話

「うぇっ? なんだ?」


 驚くブーリンとウリリンでしたが、プリンのさけび声にさらにびくっとしてしまいます。


「ああっ! 兄ちゃん、ウリリン、あそこ見てよ! ルージュちゃんが!」


 プリンが指さしたほうを見て、ブーリンとウリリンもびっくりぎょうてんです。なんとルージュが、いすに縄でしばられていたのです。そのとなりには、ワオンがギザギザの牙をむき出しにして笑っています。


「ガッハッハ、もう少しおとなしくしておこうと思ったが、もう良いオオカミを演じるのはやめるぞ! まずはこのかわいいルージュちゃんを食べて、お前たちも食べてやる!」


 ワオンの鋭いつめと、ギザギザの牙を見て、ブーリンとウリリンは「ひぇぇっ!」とみっともない悲鳴をあげて、逃げようとします。プリンがあわてて二人の手をつかみました。


「ちょっと待ってよ二人とも! このままルージュちゃんを見捨てて逃げるつもり?」


 プリンに止められて、ブーリンとウリリンは歯をガチガチ鳴らして顔を見合わせます。


「だ、だ、だ、だってよぉ、お前、あ、相手は、オオカミだぜ! わしらなんて、すぐに食べられちまうよ!」

「そうだよ、プリン兄ちゃん! 早く逃げて、森じゅうに知らせないと!」


 口々に逃げるようにいわれるプリンでしたが、キッとワオンをにらみつけると、はっきりした口調でいい放ったのです。


「待て、ルージュちゃんを食べるなんて、許さないぞ!」

「ほう、えーっと……許さないなら、どうするつもりだ?」


 ワオンがなぜか棒読みで聞き返します。ルージュが非難するような目でワオンを見ていますが、ワオンはテーブルのすみに置かれた、小さな紙のようなものをじっと見つめています。しかし、恐ろしさでいっぱいのブーリンとウリリンは、そんなことには全く気づかず、必死でプリンの腕を引っぱろうとします。ですが、プリンは一歩も引きませんでした。


「ルージュちゃんを食べる前に、ぼくたちと勝負するんだ!」


 これにはブーリンもウリリンも、まん丸い目を大きく見開いて固まってしまいました。子ブタがオオカミと戦って、勝てるはずがありません。しかし、ワオンはガッハッハと豪快に笑ってうなずいたのです。


「いいだろう、それならお前たちと勝負して、もしお前たちが勝ったらルージュちゃんを解放してやろう。だが、おいらが勝ったら、お前たちも食べちゃうからな!」


 またしてもギザギザの牙を見せびらかすワオンに、ウリリンが「ひぃぃっ」と悲鳴をあげました。ブーリンもプリンの腕をぐいぐい引っぱり、早口でどなります。


「おい、なにバカなこといってるんだ! こんな恐ろしいオオカミと勝負するなんて、そんなことできるはずないだろう! 勝てるわけないじゃないか! 早いとこ逃げよう!」


 ブーリンの言葉を聞いて、プリンがブーッと怒ったようにうなりました。


「ルージュちゃんを見捨てるつもりなの?」

「そ、それは……」


 ブーリンは固まってしまいました。ブーリンはルージュをよくお茶会に呼んでいて、いつもデレデレしているのを、プリンはよく知っていました。ワオンとルージュを交互に見るブーリンでしたが、今度はウリリンが考え深げな顔で質問しました。


「勝負っていったって、いったいなにで戦うつもりだ? それに、おれたちが勝ったら、本当にルージュちゃんを解放してくれるのか?」

「いい質問だね。もちろん、君たちが勝ったらルージュちゃんを解放するし、おいらは君たちを食べたりもしないよ。約束する。それで、勝負の方法だけど、おいらとボードゲームで戦ってもらおうか。それで君たちが勝ったら、ルージュちゃんを解放するよ」


 さっきまでの、なんとも意地悪な声から一転して、ワオンが優しい声になっていたので、ルージュがコホンッとせきばらいしました。ワオンはハッとあわてたようにルージュを見てから、ガッハッハと意地悪な笑い声をつけくわえました。


「さあ、どうするんだい? やるのか、それとも逃げるのか?」

「もちろんやるぞ! ぼくたちでルージュちゃんを助けるんだ!」


 プリンの勇ましい声を聞いて、ブーリンとウリリンは腕を引っぱるのをやめました。もう一度お互いの顔を見合わせてから、最後にプリンと目をあわせます。プリンがしっかりうなずくのを見て、二人もどうやら覚悟を決めたのでしょう。ワオンのおとぎボドゲカフェの中へと入っていきました。


「よし、それじゃあ君たちはそこにすわって待っていてよ。今からおいらがゲームを用意するからさ」


 いわれて三人は、少し広めのテーブル席へつきました。カウンターの奥へ消えていくワオンを見ながら、ブーリンが小声でプリンにたずねます。


「おい、ゲームをするっていったって、本当に勝てるのか? そもそもわしは、ゲームなんてしたことがないんだぞ。勝算はあるのか?」


 ふるえる声で聞くブーリンに、プリンは勇気づけるようにうなずきました。


「大丈夫だよ、ぼくたち三人が力をあわせれば、絶対勝てるよ! だから、みんなで協力してがんばろう」


 プリンの言葉に、ブーリンはまだ不安げな表情でしたが、こくりとうなずきました。しかし、ウリリンはうーむと、難しそうな顔で考えこんでいます。


「いや、その前にさ、今のうちにルージュちゃんを助け出して、逃げたほうがよくないか?」


 ウリリンの言葉に、プリンはハッと顔をあげました。それから助け舟を求めるように、ルージュを見ます。ルージュは落ち着いた様子で首を横にふりました。


「ダメだわ、きっとすぐに気づかれちゃうもん。プリン君たちも、もうちょっとおしばい……じゃなかった、様子を見て、なんとかゲームに勝ってわたしを助けてね」


 ほほえみかけるルージュを見て、ブーリンはもうデレデレです。ただ、ウリリンはやっぱりまゆをひそめて考えるのでした。

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