第3話 予期せぬ能力


「……は? それってどういう意味で……」

『そのままの意味だ。この小娘は転生者ではない。この世界で生まれ、この世界で育った人間だ。それ以上でもそれ以下でも……ましてや、おまえと同じ世界出身の者ではない』

「いや……いやいやいや……え?」


 意味が分からん。

 しかし、いつもみたいにふざけてる……わけではなさそうだ。

 顔は真顔。

 両腕を組んで、まっすぐに俺の顔を見てきている。

 じゃあ、本当にアンは転生者じゃないのか?

 いや、それはない。

 だって、それなら、アンだけが俺のステータスを見れているのもおかしい。

 ステータスオープン出来るのもおかしい。

 俺の世界についていろいろと知っているのもおかしい。

 いろいろおかしい。


『……どうやら、混乱しているようだな』

「そ、そりゃしますよ……いきなりそんなこと言われて……つまり、どういうことなんですか? なんでアンは……その……いろいろ知っているんですか?」

『さあ』

「いや、いまさら〝さあ〟って……」

『私はこの少女と話したことがないから何とも言えん。なぜ自身を転生者と騙るのか、なぜ貴様の言うとおり、いろいろなことを知っているのか……それについては、この少女しか知り得ぬだろうな。私があれこれと言うのは構わんが、それはあくまで推論でしかない』

「でも、アンが転生者ではないのは……確定なんですよね?」

『ああ』

「あの、証拠は……?」

『私が噓をついているとでも?』

「い、いえ……そういうわけでは……」


 有無を言わせない雰囲気だ。

 でも、よく考えてみれば、女神がここで俺に嘘をつくメリットも理由もない。

 到底納得することは出来ないが、事実……ということなのだろうか?


『……そうだな』

「え?」

『それでもあえて私の推論を述べるなら、この少女は〝転生者〟と知り合いなのではないか?』

「知り合い?」

『ああ、もちろん私が言っているのは、貴様とはまた別の転生者だ。……少女は、その者から〝転生者〟の情報を得、異世界の知識を得たのではないか?』

「じゃあ、俺のステータス画面が見えていたのも……?」

『順当に考えれば〝フリ〟だと思うがな』

「そんなことって……いや、でも、アンは自分でステータスオープン出来てましたけど」

『そんなものは誰でもできる』

「え?」


 今、なんて言った、この女神?

 とんでもない事を聞いた気が――


『たとえば、そこの獣人も〝ステータスオープン〟と唱えれば、ステータスを表示することが出来るぞ』

「ど、どういうことですか?」

『貴様が元いた世界でも、唱えれば表示されていたのだ』

「あ、あの……話が見えないんですけど……」

『要するに、ある程度の知能がある者なら誰でも自身の〝ステータス〟を表示することが出来る……しかし、それを視認できるのは〝転生者〟だけということだな』

「な、なんてこった……」


 体が動く状態なら、完全にへたり込んでいる。

 俺も社畜時代、気づかないうちに、ステータスを表示させまくっていたってことか?

 けど、これで納得がいった。

 普通の人は口頭で『ステータスオープン』なんて言わない。


「……あれ?」

『どうした』

「でも、レジスタンスのアジトでリンスレット……この獣人が俺をいじった時、ステータスオープンって言って表示されなかった気が……」

『それは、本当に唱えていたのか?』

「え?」

『その獣人は本当に、一言一句、たがわずに〝ステータスオープン〟と発したのか?』


 女神にそう尋ねられて、あの時の事を思い出してみる。


 ◆


『ほら、もっかいあれやってみてよ』

『………………』

すてえたすおぷーん・・・・・・・・・、とかいうやつ』

『………………』


 ◆


「――た、たしかに……彼女は正しく〝ステータスオープン〟と発音していませんでした」

『そうだろう?』

「は、はい……でも、え? じゃあ、本当にアンは転生者じゃ……?」

『くどい』

「す、すみません……」


 まずいな。

 頭が混乱してきた。

 その上、アンの存在が、アンという人間……いや、人間かどうかも疑わしく思えてきた。


 こいつは一体、何者なんだ?


 どういうことだ?

 なんの意図があって、そんな嘘を?

 俺に近づくため?

 しかし、それでアンになんのメリットが?


『なんというか、本当に面倒な事件に巻き込まれているようだな』


 だから言い方とか色々軽いっての。


「……面倒なんてもんじゃないですよ……勘弁してください……」

『――よし』


 女神がポンと手を叩いて俺の目を見てくる。


『では、そんな可哀想な貴様に今度こそ、なんかいい感じの能力を授けてやる』

「え? 能力……ですか?」


 急だな。

 たしかに今の能力に満足している……とは言わない。

 けど、俺はいま、それなりに強力な能力を持っていると自覚している。

 だから、能力をもらえるのは――

 正直嬉しいのは嬉しいけど、持て余してしまうんじゃないか、という不安もある。


「……いいんですか?」

『うむ』

「本当に?」

『ほら、何か言ってみろ。なんでもいいぞ』


 なんでそんなに急かしてくるんだよ。

 そんなに早く帰りたいのか?


「う~ん……そんなこと急に言われても、すぐには思いつかないな……」

『ふむ。困っているのなら、もうひとつ、助言を授けてやろう』

「助言……ですか?」

『そうだ。……まぁ、有体に言えば、いままでの傾向だな』

「傾向……?」


 何を言っとるんだ。


『まだピンと来ていないようだな』

「ええ……」

『つまり、今までの転生者が、どのような感じで二度目の能力をもらったのか……その過程や能力について教えてやろうという意味だ』

「ああ、なるほ……え? ふたつ目の能力をもらえるのって、レアイベントじゃなくて、結構あることなんですか?」

『いや……ここ数日はないかな』

「結構ありそうだな!!」

『火を起こせるなら風を。水を出せるなら氷をという具合で、従来持ち得る能力と関係性のある能力がよく選ばれているぞ』


 本当に話をサクサク進めてくるな。

 まぁ、べつにいいけど。


「……でも、ステータスオープンと関係性のある能力なんて……どういうのだ?」

『うん? なにを言っとるんだ、おまえ?』

「え? 何って、俺の今の能力で……」

『今のおまえは無能力者。……つまり、なにも出来んから、一気にふたつ能力を授けてやろうと、私は言っているんだぞ?』

「……は?」

『はあ!?』

「ごえんなほい……」


 ものすごい形相で睨みつけられ、思わず謝ってしまう俺。

 いや、なんでキレられてるんだ、俺。


『ほら、はやく火とか電気とか、主人公ぽい能力を選べ。どうせ、そういうの好きなんだろ?』


 なんて偏見だ。

 ……たしかにそういうストレートな能力は魅力的だけどさ。


「でも、俺が無能力者って……え? どういうことですか?」

『なんだ。自覚しとらんかったのか?』

「自覚も何も、実際、ステータスオープンとかできますし……」

『ぷぷぷ』

「いや、なに笑ってんすか」

『勘弁してくれよ、ダイナマイツぅ~』

「もう俺の名前、それに決定したんですね……」

『そんなの転生者なら誰だってできるって、さっき言っただろ~? ん~?』


 マジでイラつくな、こいつ。


「でも俺……というか、俺のステータスって、他人のとはちょっと違うかもしれないんですけど……」

『な~にを言っとるんだ、おまえは? 自分だけ他人と違う感じがするって……中学二年生か?』


 キレるな。

 耐えるんだ、俺。


「……じゃあやっぱり、他の人も自分のステータス画面を触ったり持ったりできるんですか?」


 俺がそう言った途端、女神の顔からスッと笑顔が消える。


『なにそれ?』

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