第22話 流星は二度煌めく
「恩に着るわ、ダイスケ」
「ああ、
リンスレットが顔を近づけて、小声で俺に囁いてくる。
俺たちは依然、構えたままのケィモ王からすこし距離を取って作戦会議をしていた。
「……無敵なんかじゃないわよ」
「え?」
「パパは無敵なんかじゃない。さっきあたしが突っ込んだ時、ほんのすこしだけど、そのカラクリがわかったの」
「カラクリ?」
「そうよ。……というか、あたしの必殺技を受けて、ピンピンしてるわけないじゃない」
リンスレットに言われ、さっきの場面を思い出す。
たしかにあの破壊力の攻撃を受けてピンピンしているのは考えにくい。
でも――
「ケィモ王ならありえるかも……」
「ありえないわよ」
「いやいや、だってあの風体だぜ?」
俺はそう言って獅子の獣人を見る。
ラスボスだよ。あんなの。
「あんなのに惑わされないでよ、もう」
「おまえ、自分の父親になんてことを……」
「指」
「え? ……あっ!」
「気づいたようね」
「おまえ、よく親の指を噛み千切れるよな……ぶっちゃけ、すこし引く……」
「そこじゃないわよ!」
「は? じゃあなんだよ」
「あたしのさっきの攻撃は、噛みつきなんかよりもずっと威力は上だってこと」
「……つまり?」
「ニブいわね。噛みつきで傷つくなら、あの攻撃を受けてピンピンしてるはずないじゃない」
「あ、ほんとだ」
「ね?」
「ああ、じゃあなんで、ケィモ王は無傷のままなんだ?」
「だから、そのからくりに気づいたって言ってんの」
「なるほど……で、そのカラクリって?」
じぃ。
穴が開くほど、リンスレットに顔を見られる。
彼女の大きな瞳には、俺の困惑している顔が映っていた。
「な、なんだよ……」
「あんた、
ドキリ、という表現はすこし古いだろうか。
ともかく、核心を突かれ、体がすこし跳ね上がってしまう。
「……な、なんでわかった?」
「そんなの、見てたらなんとなくわかるわよ」
「み、見てたのか? 俺が戦ってたところを!?」
こいつ、ケィモ王と戦ってたくせに、俺にも意識を飛ばしていたのか?
なんて器用なやつなんだ。
「あっ、いや、べつに!」
「は?」
「心配だったとか……そういうんじゃないから!」
リンスレットが顔を赤くして、手をパタパタと振って否定している。
「そ、そうか……」
心配してくれてたんだな。
「と、とにかく、作れるんでしょ? 壁?」
「ああ、まぁな……」
「数は? 大きさは? 強度は?」
一気に質問が押し寄せてくる。
とりあえず――
「……何するつもりだ」
「決まってんでしょ、パパをボコボコにするんじゃない!」
「いや、それはわかってるんだけど……って、俺が?」
「あたしたちが、よ!」
よくわからんが、ここまで言ってくるってことは、よっぽど自信があるってことだろう。
いまいち把握できていないが、リンスレットにも何か考えがあるということだろう。
アン以外に能力の事を教えるのは抵抗があるが、そうも言ってられないか……。
「……見えない壁の数は、俺の
〝体力〟と
ちなみに現在の俺のMPは〝7〟だから、画面は一気に七個まで作ることが出来る。
「大きさは俺の両手のひらより少し大きめ」
「思ったより小さいのね……」
「ある程度までだったら大きさは調節できる」
「どのくらい?」
「俺の身長とリンスレットの身長を足したくらいだな」
「……わかった。強度は?」
「ものすごく硬い」
「どれくらい?」
「たぶん、なにをしても壊れないと思う」
俺がそう言うと、リンスレットは眉をひそめて、もっと俺に顔を近づけてきた。
「……本当に? 試していい?」
「対抗心燃やしてる場合か」
「あ、ごめん」
「……それよりいい加減、そのカラクリと、なにを考えてるか教えろよ」
「うん。要するに、〝見えない壁〟ってのがミソなのよ。つまりね――」
◇
「――いくわよ、ダイスケ」
即興の作戦会議も終わり、リンスレットが俺に声をかけてくる。
肝心の作戦についてだが――
ぶっちゃけ、脳筋のリンスレットにしては案外、きちんとした作戦だった。
あとはケィモ王にバレないよう、上手くやるだけ。
「どうした。悪だくみは終わったのか?」
こぶしを構えたままのケィモ王が、挑発するように話しかけてくる。
「呑気なものね」
リンスレットがふん、と鼻を鳴らす。
「
「そのとおりだ。だが、もうひとつ理由がある」
「……なによ」
「圧倒的敗北感を植え付けるためだ。如何に策を弄したとして、敵わぬ相手がいるということを骨の髄まで叩き込み、二度と歯向かえなくする。……それでおまえはようやく理解するだろう」
「悪趣味な親ね」
「これも教育だ。我が娘よ」
そう言って両者がニヤリと笑う。
正直、俺には理解できない感性だ。
だからこそ、俺は俺のやることを――
「ダイスケ!」
リンスレットから合図が飛んでくる。
その瞬間――
ビヨン!
とリンスレットが勢いよく飛び上がった。
「何かと思えば……敵前逃亡、戦線離脱、その人間と私の一騎討に持ち込むつもりか……!」
そんなわけないだろ。
「……ステータスオープン!!」
俺はまずステータス画面を、俺たちの真上に展開した。
そう。
俺たちの狙いはもう一度あの〝なんとか流星〟を、今度こそケィモ王に当てることだ。
そして、だいぶ間が開いたが、俺の能力についてその三。
かなり遠くにはステータス画面を展開できないが、多少離れた場所にも展開できる。
俺のいる場所から、天井の穴まで三メートルほど。
これくらいは展開可能範囲内だ。
「なに!?」
ケィモ王が天井を見上げ、驚いている。
おそらくリンスレットが、天井に
俺はリンスレットに一瞥もくれることなく、ケィモ王に向かって駆け出す。
べつに自殺願望があるわけでも、やけくそになっているわけでもない。
「なるほど。さきほどの攻撃をもう一度……そして、あれはそこの人間の……む?」
ヤバイ。
目が合った。
「……いや、リンスレットは視線誘導の囮役で、やはり人間が本命だったか! よかろう、木端微塵に吹き飛ばしてくれる!」
そんなわけあるか。
あくまで作戦の要はリンスレットの攻撃だ。
「ステータスオープン! ステータスオープン!! ステェタスオォプンッ!!」
〝三連ステータス画面展開〟
喉が張り裂けそうになる。
俺はケィモ王の左右と後ろを取り囲むように、ステータス画面を出現させた。
一気に四つ連続出現させるのは不安だったが、どうやら成功したみたいだ。
ホッと胸をなでおろした途端、急に全身がすさまじい倦怠感に襲われる。
腕が上がらなくなり、脚の力が抜け、急ブレーキをかけたようにその場に尻もちをつく。
だめだ。やっぱり無茶をするべきじゃ――
パァアアンッ!!
突然、けたたましい破裂音が俺の鼓膜を揺らす。
「痛ッ!?」
そして頬を何か、鋭い痛みが襲う。
咄嗟に手をあてて確認すると、手に生暖かい感触。
見ると、血液が付着していた。
「危険を察知して避けたか……それとも……」
ケィモ王の声。
見ると、腰をひねりながら、拳を突き出していた。
正拳突きだ。
その瞬間、ぞわぞわとした悪寒のようなものが俺の全身を包む。
あとすこし――
もうすこし――
ケィモ王に近づいていたら、俺は確実に頭を吹き飛ばされて死んでいた。
「だが、ふむ……やはり、本命はリンスレットか……だが――」
ゆらり。
その瞬間、ケィモ王の足元が
「なんだ……あれ……」
足は見えるんだけど、透けて見える。
「芸がない。そのような攻撃、我が足捌きの前では児戯に過ぎない」
足捌き。
やっぱり、リンスレットの言っていたことは本当だったんだ。
先刻のリンスレットの攻撃。
どんな理屈かはわからないが、ケィモ王はあの目にもとまらぬ足捌きで避けたのだ。
「どぅおりゃあああああああああああああああああああ!!」
リンスレットの汚い雄叫び……ではなく
「愚かな! 万策尽きた挙句、玉砕覚悟の特攻とは――」
ガッ!
案の定、ここでリンスレットの策が決まる。
ケィモ王が俺のステータス画面にぶつかり、困惑している。
「な、なんだ、これは……!?」
「へへ……」
自然と俺の口から笑みがこぼれる。
「き、貴様か! 私に何をした、人間!!」
「逃げられなくした」
「なんだと……!?」
「……圧倒的な敗北感だっけか?」
「ぐ……ッ!」
俺がそう言うと、ケィモ王が悔しそうに顔を歪める。
「なら、正面から受け止めてやれよ! 娘の想いをよ……!」
「ふ、
「いけえ! リンスレット! わからずやのオヤジをぶっ飛ばせ!!」
ガッ!
後方、上空から鈍い音。
それが聞こえたと思ったら今度は、ヒュン、という風切り音。
そしてその瞬間、大きな揺れとともに俺の視界が暗転する。
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