家族

※後半アーノルド視点


廊下を一緒に歩いていく。


何回も何回も角を曲がって、上り下りをして、どんだけ遠いんだ。


途中でしんどくなって金髪の人を見上げると、気づいてくれて抱っこをしてくれた。抱っこなんていつぶりだろう。


温もりと、ゆらゆら揺れる心地良さにうとうとしていると、金髪の人が話しかけてきた。


「ちづきの本名は何なんだ?」


「ん〜・・・えっと、あずみ、ちうき」


眠たくて、名前を言うときに間違ってしまった。


「ちうき?ちづきじゃないのか?」


「ち〜づ〜き。あってるぅ~」


眠気ほど凄いものはない。やばい。もう落ちそう。


「そうか。俺はアーノルド・ライフエール・ケンソークだ。気さくにアーノルド、ノルドと呼んでくれ」


「ん、のるどしゃん・・・うう〜〜・・・」


「ちづき?っはは、眠かったら眠っていいんだぞ?」


その言葉を聞いたあとに僕の意識は暗闇に飲まれていった。





アーノルド視点

 

俺の腕の中ですやすやと心地よさそうに眠る子供を見て、考える。


ちづきが小さい頃にそういう暴力を受けていた可能性は今日の反応を見ていて、充分にあると分かった。


これからの付き合い方を考えないと、俺らもいつかは嫌われてしまうかもしれない。


起きたときに、メイドに対して、興奮し叱るような厳しい口調になったらしい。


それに、俺らが見つめていると分かったときの怯え方だ。すぐにぬいぐるみから手を放し、青ざめた顔で鳳凰にすり寄っていった。それに、俺らからは見えにくい場所に行った。


しかも、俺らの表情や行動にいちいち反応し、顔に恐怖が現れていた。


「この子は、どのような扱いを受けていたんでしょうか?」


「大体は想像できるだろう。普通の奴隷とは変わらないと思うが・・・この胸に刻まれている印を調べてくれないか?」


「わかりました。まあ、初対面の私達に笑顔を見せてくれたのは唯一の救いでしょう。」


「そうだな」


ヨリックが俺の脳内があまり暗い方向に沈まないようにしてくれる。本当に助かる。


「ふう、これからのほうが大変ですよ。ちづき君、いきなり人に囲まれて大丈夫ですかね?」


「大丈夫だろう。な?」


そう言いながら、後ろをついてくる四匹を見た。


四匹は賛成するように一声鳴いてくれた。つくづく頼りになるやつらだ。


目の前にある大きな扉がメイドの手によって開かれていく。そして、三人の姿が見える。


アンルシアは腕の中で眠っているちづきを見て、目を輝かせている。そうだろう。弟か妹がほしいと言っていたからな。


一方、ソユアはとてもホッとした表情をしている。


ソンアリーはニヤニヤとして、何かを言い出しそうだ。めんどくさいことを言われる可能性があるから、アンルシアの方から見せに行ってあげよう。


「ちづき、ちづき、起きれるか?」


とんとんと、優しく背中を叩いてあげる。


「ん~~?んうう・・・」


「寝たままでもいいですよ。お父様」


そう言われたので、横抱きにして椅子に座っているアンルシアのもとへ行く。


「そうか、この子が預かることになる、あずみちづきだ」


「すごい。可愛いです。髪も真っ白ですごく綺麗」


ほうっと感嘆の吐息を漏らしている。凄く感動しているみたいだ。


ソユアもいつの間にか加わっていて、アンルシアと一緒の顔をしている。


ふたりとも可愛らしい。


「頬がぷっくりしています」


「とても可愛らしいです。僕、こんなに可愛らしい弟ができてとても嬉しいです」


「私もです。どんなことをして遊ぼうかと、とてもワクワクしています。」


「あら、私には見せてくれないの?」


ソンアリーが横槍を入れてきた。この可愛い三人が揃っている姿をもう少し見ておきたかったのに。


ソンアリーの横に座り、ちづきを見せてあげる。一日中寝ていたのにまだ寝れるのか・・・。羨ましいな。


「本当に天使のようね。胸元の印だけはどうにかして、解かせるわ」


ちづきの胸に刻まれているものは、貴方に永遠尽くす、という意味で掘られている。魔力も込めながら掘るので、ほぼ契約というよりも呪いなのだが。


なので、この印をなくすには魔力を解いてからではなくてはいけない。しかし、奴隷商は無駄なところで力を発揮し、専門のものではないと、解けないようになっている。


自力で解くのは確実に無理だ。


ソンアリーの顔が怖い。


「んんう・・・」


ちづきがもぞもぞと動き出した。皆で起きるかな?と見つめる。


ちづきは薄目を開けた。しかし、意識は覚醒してないようだ。少し視線を彷徨わせると、また目を閉じてしまった。


「目、真っ黒だったね」


「すごい真っ黒。吸い込まれちゃいそうだ。」


「完璧な黒なんて珍しいわね」


「そうだな」


俺も今さっきまで話していたときは気にならなかったが、本当に真っ黒だった。茶色すらない。あるとすれば、目の中に反射した照明の色だけだ。この子は本当にどこの村の出なんだろうか。

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