高校生

 若葉には色々迷惑をかけたけれど、風邪はちゃんと治った。

 で、今は兄さんと対峙している。

「で?なんであのときは怒ったの?」

 兄さんは私が怒ったときにすごく傷ついていたけど、もう今は開き直って上から目線で聞いてくる。うん、私の八つ当たり以外の名目がないから、仕方ないんだけど。

「あ〜・・・イライラしてたっていうか・・・なんというか・・・」

「まあ、いいんだけど。風引いてたしね。情緒が不安定になるのは仕方ないんだと思うけれど・・・。お母さんの話は?聞いた?」

「ううん。聞いてない。逃げたの?」

「うん。行方がわかってない。何ヶ月も前から。まあ、今は僕という収入源があるから大丈夫だと思う。句伊譁も大学に行けるぐらいには溜まってるし、金銭面については何も心配しなくてもいいよ」

「わかった・・・」

「それで、ちょっと相談があるんだけど・・・」

「何?」

 兄さんの頬がうっすらと赤に染まる。

「あの・・・朱もここの家に住んでいいかな?」

「え?ああ。べつにいいよ。私が部屋にいるときはセックスしないなら。」

「セッ・・・!!まあ、しないと思うから・・・いいってことだよね?ならべつにいいや」

「いや〜あの兄さんが恋人作るとは・・・」

 兄さんは嬉しそうにニコニコ微笑んでいる。聖母マリアを思い出させる笑顔だ。

 若葉にも言わないと。ちなみに朱さんは今買い物中らしい。家庭的な人で良かった。これで兄を放置するような人だったら、私が殺しに行ってた。

「ありがとう。そうだ、若葉には告白したの?」

「へ?!い、いきなりなん、なんのっは、はあなし???」

「いや、びっくりしすぎ。だから、昔から若葉と結婚するんだって言ってたじゃん。告ったの?」

「・・・好きって言葉を引き出されそうになった。で、私が一方的に怒って・・・同情なんかで付き合ってほしくないって・・・」

「へえ・・・句伊譁がそんなことされる側だったんだ。狼狽えて、怖くなって、理不尽に怒ってる姿が目に浮かぶよ」

「っ・・・」

 何も言い返せない。いつの間にか兄さんがどっかに行っちゃったみたいだ。私の中の兄さんにはこんな色気はなかった。そう思うぐらいに今の兄さんは大人だ。

「ねえ、句伊譁。若葉と結ばれたいの?結ばれたくないの?いつまでもその選択から逃げてばっかじゃいけないよ。もう、誰も手を取って、こっちだよ。なんて案内してくれない。もうそろそろ自分で決めないと。そうしないと、僕の二の舞いになるよ?それでいいの?句伊譁。今決めないと。若葉はそうウジウジしている間にきっと遠い場所へ行ってしまうよ?」

悲しそうに兄さんは言う。

「それでも・・・私は覚悟を決められないと思う・・・」

「・・・そうか。別にいいんだよ。人それぞれだしね・・・」

そういった兄さんは困ったように笑ってごまかした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初恋相手 炎猫幻 @enbyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ