風邪

句伊譁が風邪をひいたらしい。

栗紫兄さんが句伊譁のスマホを使って連絡をくれた。

外に出れるようになったんだ・・・。元気な頃は私達と飽きもせずにずっと一緒にいてくれた。優しい人だ。


句伊譁の家に来るのは高校が始まってから、来ていなかったから、半年ぶりだ。

緊張しながら、句伊譁の家の呼び鈴を押す。

はーい、と知らない男の人が出てきた。

「だ、だれですか?」

「浅葱朱。よろしくな」

関西弁なのかな?でも、テレビで聞くよりは柔らかい雰囲気の言葉だ。

だから、ちがう県の人なのかな?わからない。

「若葉、久しぶり。ごめんね。朱は僕の知り合いなんだ」

「知り合い・・・」

栗紫兄さんが出てきた。うわあ。神々しさが半端ない。

その神々しい栗紫兄さんの知り合い、という一言で、朱さんがすごいショックを受けている。なんでそんなにショックを受けているんだろう・・・?

「いつもの部屋に寝かしといたから。僕らが看病しようとすると怒ってしまって・・・。風邪ひいてるのに、動いたら悪化するでしょ?だから、一番信頼してる若葉に来てもらったんだけど、ごめんね。また色々迷惑かけちゃう・・・」

「大丈夫だよ。迷惑かけられるのには慣れてるから」

そう言うと、栗紫兄さんはすごくホッとした顔をしていた。

句伊譁がなにか言ったのかな?すごく思いつめている顔をしている。

句伊譁は栗紫兄さん第一で考えてるから、栗紫兄さんに怒るなんて相当のことがあったんだろうな、と思う。

私で本当に大丈夫?

不安を抱えながら、句伊譁が寝ている部屋へ行く。


部屋へ入ると、句伊譁が寝ていた。

夢見が悪いのか、唸っている。

「う”う”ぅ・・・うっ」

「句伊譁・・・」

呼びかけて頭をなでてあげる。

すると、顔が穏やかになって、唸っているのも止まった。

「ん・・・あったかぃ・・・」

句伊譁が私の手をとって頬に擦り寄せた。

ああ・・・!!可愛すぎる!!!!

「んふふふ」

句伊譁が可愛らしく微笑んだ。起きてたの・・・。

「百面相、かわいいね」

「な・・・!そんな事言わなくていいんだよ・・・?」

「言うよ!これからも、もっともっと!朱さんに負けないぐらいに!」

朱さん何を言ったの?句伊譁がこんなにやる気になるなんて。

私、今まででも恥ずかしかったのに、これ以上になるなんて耐えられない。

話題を変えるために、話をふる。

「なんで、栗紫兄さんが入っちゃいけないの?」

「あ~。じゃあ、しんどいじゃん?」

「うん」

「部屋に入られるの嫌じゃん?」

「う、うん?」

私の場合、入ってこられたことすらない。これもある意味変な家族になるのかな?

「なのに、朱さんに兄が、口説かれてるシーンを永遠見せられるのは?」

「嫌だねえ」

そんなことが・・・。災難だね。

私が句伊譁に何があったかはすぐに分かってしまった。だって、私が句伊譁の部屋に行くまでにも、朱さんは栗紫兄さんを口説いていたから。

でも、栗紫兄さんに合う人だと思う。あの事件から栗紫兄さんは臆病になったから。あれぐらい、グイグイ来なきゃ、きっと自分の気持ちを伝えられない。句伊譁みたいに。

私も前にグイグイ行ったけど泣かせてしまった。だから朱さんにコツとか聞いてみたいなあ。肝心なところで臆病になる句伊譁だから、私が支えてあげたい。句伊譁に違う好きな人ができたとしても。

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