最終話 後日談というか、今回のry

 結局あれから、団地に頻発していた怪奇現象の報告は格段にその数を減らした。

 というのも、完全にそういう話が聞かれなくなったわけではなく、あれから一週間が過ぎた今でも時折、昼のお茶会などでそう話題に上げてくる主婦仲間がいるからだ。

 それが幽霊の仕業によるものなのか否か、それをはっきりさせるすべはないし、させようとも思わない。

 というか、みんなまだ神経過敏になって被害妄想をたくましくさせているだけなんじゃないかと思う。

 事実、私の部屋では明らかな怪奇現象は見られなくなったし、たまに小物がテーブルから落ちるなどしてビクッとすることもあるけれど、冷静に考えるとそれは私の足がテーブルに当たったことが原因だったりとか、そういう類の話だからだ。

 ちょっと何か異常が起こると、すぐに幽霊の仕業にしたがる。

 そしてそれらが解決していないことは霊能者のせいにしたがる。

 そんな空気。

 ただ、明確な怪奇現象は本当に減っていて、今だに皿が飛んだなどという報告してくる住人に対して私と同じような考え方をしている人間がいるのも事実。

 あとはもう気の持ちようだろう。

 時間が経てば、徐々にそんな話もなくなっていくんじゃないかな。

 少なくとも今では、私は微塵も怯えることなくコンロを使っている。

 二人分の夕食を作るために。

 ――あの日、天ノ宮さんがタクシーで去っていった後――。

 コミュ障で大して口が上手いわけでもない私は、一大決戦に挑むような気持ちで帰宅した大輝を出迎えた。


『悪かった』

 

 ものすごく意気込んでいた私の精神は、機先を制してきた大輝の一言で脆くも崩れ去った。


『色々言っちゃったけど、俺と一緒になってくれて感謝してるのも本当なんだ。それは信じて欲しい』


 そんな、どこかすがるような眼でそんなことを言われたりなんかしたら、私も応えないわけにはいかないじゃないか。


『うん、私も、大輝に言われたこと、できるだけ直すから』


 私はそうやって歩み寄ろうとしたんだけど、しかし旦那はそんな私にふるふると首を振った。


『いや、お前はそのままでいてほしい。やっぱり俺は、そのままのお前がいいよ』


 そのままでいいと言ってもらえる幸せ。

 私はそれを噛み締めながら、今も二人分の夕食を作り続けている。

 もしもいつか、作る食事が一人分でも増えるようなことがあれば、それもまた幸せなことなんだろうなと思いながら。

 離婚届はもちろん、シュレッダーで細切れにしてゴミ箱の中だ。




 点けっぱなしだった居間のテレビが夕方のニュースを届けてくる。


 ――今日午前十時頃、G県○○署に『大勢の人間から金銭を巻き上げた』と言う女が自首してきました。警察の事情聴取によると、女は『除霊してもいないのに依頼人に報酬を要求し、また、何の霊的効果もないアイテムを高額で売り付けた』と供述しており、警察は事実確認を急ぎつつ、今回の件が法に問えるのかどうかという観点から調査を進めています。

 また、女に出頭してきた理由を訊くと、『長い黒髪の女子高生に脅された』などと答え、その女子高生の素性を訊ねると取調室の壁を指差すなど、まるで何かに怯えた態度を見せていることから、重度の薬物使用の疑いも含めて――




~ 完 ~


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完全犯罪には完全犯罪を ふい @huiihu

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