第二話 そしてJK霊能者


 こんな感じで全然解決の目を見ない我が団地の奇怪な事情だったけれど、霊能者のほうにも色んな見解があるんだなぁと、私はある種感心の念を抱いていた。

 しかし、そういった専門家でもこの団地が抱える問題の解決には至らなかった。

 結局、霊能力なんていうあやふやなものは眉唾の域を出るものじゃなく、ひいては霊能者や霊媒師、幽霊なんていうものも存在しないっていうことなんだろう。

 ……だといいんだけどなぁ。

 どう考えてもがいるとしか思えないんだよなぁ。

 そんな諸々の現実に自治会長や大家さん、オーナーさんたちは頭を抱え、住人たちの間にもいつしか諦観した空気が流れ始め、その不安や憔悴しょうすいも限界に達し始めた頃。

 自治会長は苦悶に顔を歪めて言った。


「次が最後だ。最後に一人だけ、依頼してみよう。もしそれでダメだったら……」

 

 この団地を出ていくか、何か他の方法を各々おのおの考えるしかない。

 どうするにしろ、この上なく難しいことは確かだ。

 そして八方塞がりの状況に誰もが頭を抱え、住人たちの最後の望みを無自覚に託されて、これが最後と決めた霊能者がこの団地にやってきた。


    *


「どーもー! わたし『キラキラッ☆怪奇現象』から依頼されてやって来ました、霊能者の天ノ宮煌あまのみやきらといいまぁーーっす!」


 土曜日の公民館だった。

 主に会合の場を持たれる広間に顔を出して早々、きゃぴるんっ、と額に横ピースをして挨拶をしてきたのは、どこかの学校の制服らしきブレザーの上に決して安価ではなさそうな着物をまるでコートか何かのように前を開けて羽織った、紛れもないJKだった。

 首から上だけ見れば、少し色を抜いたセミロングにナチュラルメイクという、どこにでもいそうな控えめとも派手とも言えない出で立ちだけど、性格のほうは渋谷のギャルみたいにはっちゃけていそうな。

 

「…………」

「…………」


 顔合わせに立ち会わされたこの団地の住人たちのリアクションが、いつぞやの迷惑系YouTuberを前にしたときのようだった。

 しかし今回はあのときのように、どうにも無遠慮かつ不躾なだけではない。

 それというのも、JK霊能者にはお連れが一人、隣に佇んでいたからだ。


「…………」


 JK霊能者と同様の制服を着ている。その上に黒地の(普通の)コートも着用しているけれど、それ以外の出で立ちと振る舞いは見事に対照的だった。

 背中の中ほどにまで届く黒のロングヘアに、細長い銀縁の眼鏡。それは理知的で才女といった印象を与えるものではあったけれど、その奥にある切れ長の瞳はこの場にいる誰も捉えようとはせず、どこか虚ろで、ひどく厭世えんせい的に見える。

 こちらに対して愛想の一つも見せず、曲がりなりにも明るく挨拶をしてきた着物少女と違ってうんともすんとも言わない。


「うん?」


 と言ったのは、着物少女のほうだった。

 私に向けて二度三度瞬きを繰り返すと、傍らを振り返って無言少女に言う。


「ほら、挨拶」


 そうやって促されたことで、黒髪無言少女はどこか怪訝な顔を作りながらも渋々といった様子で、少し低めの声をその口から吐き出した。


「……よろしく」


 その段になってようやく、こちらの面々も呆けたような顔から我に返り、各々戸惑いながらも挨拶を返した。

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