第一話 霊能者にも色々いるらしい

 自治会長たち代表者が色々と調べて依頼をしたのは、年齢五十前後の、ナイスミドルな男性だった。

 どこかのお寺で住職をしているという話だけど丸坊主というわけでもなく、短く刈り込んだ髪と引き締まった顔付きに思わず惹かれる魅力があった。

 同じ団地に住む大学時代の男友達の佐伯さえきにそんなことを話したら、


「おい既婚者」


 と突っ込まれた。

 ともあれ、ナイスミドルの住職によると、団地内の至るところで悪い霊の溜まっている場所があるのだという。

 ナイスミドルは各所でぬさを振り回し、お祓いをして「これで大丈夫です」という太鼓判と引き換えに十万を請求して去っていった。

 何と自治会長がポケットマネーで支払ったらしいものの、その晩にはいつもと変わらず怪奇現象が至るところで確認され、さらに翌晩はそれとは別の要因であろう悪夢に自治会長は苛まれたという。たぶん十万が翼を広げて飛んでいく夢でも見たんだろう。

 ナイスミドルへの気持ちはソッコーで冷めた。

 そしてナイスミドルがハズレに終わったので、当然二人目の霊能者を探すことになった。



 二人目。

 四十前後の、年齢を濃いめのメイクで覆い隠した好きになれない女性だった。 

 佐伯に包み隠さずそう言ったら、


「まぁ、せめてあと十年若けりゃなあ」


 と返って来たので、


「おい既婚者」


 と突っ込んでおいた。

 ともあれ二人目。

 霊媒師を自称するディープメイク女によると、団地の中心を貫く主要道路が鬼門から裏鬼門に向けて通っているとか何とかで、風水や陰陽道的に霊の通り道と化してしまっているのだとか。

 双方共に盛り塩をしたり、聞いたこともない名前の植物を植えたり、猿やら水晶などの置き物、護符を配置するなどといった対策を勧められた。

 今回はアドバイスだけだったので、支払い報酬は交通費込みで二万ほど。いや、ほぼアドバイスだけで二万て……。

 その上、アドバイス通りに鬼門、裏鬼門に対策を施すには諸経費が掛かりそうだった。自治会長はとりあえず盛り塩と、経費が安く済みそうなものから考えていくと言っていた。

 風水などは信じている住民も少なくなかったため、自治会長もそれを実行することにしたんだろうけれど、科学的根拠のないことに否定的な住人たちも多く、そんな手段に時間とお金を掛けることに懐疑的な声もあった。

 しかし盛り塩をし、猿と水晶を置いた辺りで、団地を悩ませる怪奇現象はにわかにその頻度を落としたような気がした。


「気のせいでしょ。それか偶然」


 そういう主婦仲間もいたけれど、この状態でしばらく様子を見て植樹しょくじゅかおふだを検討しようということになった。

 そうして静観している内に、依頼してもいない三人目が幽霊団地の噂を聞き付けてやって来た。



 三人目。

 二十代半ばくらいの、今度は全く霊能者らしい要素の見られない、至って現代風のファッションに身を包んだ若い男性。

 私と同い年くらい。

 ていに言って、迷惑系YouTuberだった。

 事前のアポもなく、こちらの承諾もなく押し掛けてきて、これまた承諾もなく撮影するだけして去っていったのだから、まぁ迷惑系でいいだろう。


「いや、マジマジ、このカメラで撮影したら、ユーレーっていうの? 封印できるんですって。撮影できたら一発っすから。ね? いいでしょ? 撮らせてもらっても」


 まぁ現在この団地が抱える事情はあらゆるメディアで広まってしまっているし、いつかこんなのが来る気はしていたけれど、それがまさか迷惑系YouTuber兼中二病だとは思わなかった。

 ……どこの射影機だ。ってかデジカメだったし。

 結局、迷惑系YouTuberはコメントやナレーションを付けながら無遠慮に団地内の至るところをその射影機デジカメに収めて回り、


「じゃ、これいい感じに編集してYouTubeに上げとくんで、良かったら見てください。んじゃ」


 と言って帰っていった。

 私は「射影機にもついに動画モードが搭載されたのかー」などと心中で揶揄しながらそれを見送った。

 今回はお金は取られなかったものの、代わりに名誉とかプライバシーとか失った気がするし、翌日には二人目のディープメイク女のアドバイスで下火になっていたはずの怪奇現象が息を吹き返していた。

 心霊スポットでふざけたりすると、そこにいる霊が怒ったりすることがあるという都市伝説。

 今回の迷惑系YouTuberとの因果関係も科学的根拠もはっきりしないけれど、二人目のときとは違って住人から「気のせい」や「偶然」という言葉が聞かれなかったのが不思議だった。悪いことが起こると何かのせいにしたがるという、人間の黒い一面を垣間見た気がした。

 団地にはまたもやどんよりとした空気が蔓延し始め、昼のお茶会も盛り上がりをみせることなく、どこか重たい空気にしかならない。

 状況の悪化には自治会長も頭を抱えていた。

 まぁこれを霊能者として三人目とカウントしていいのかははなはだだ疑問だったけれど、こんな奴も来たということは一応触れておこうと思ったので。



 四人目は一人目のナイスミドルと似たり寄ったりの虚言癖があったようなので飛ばして五人目。

 またもや依頼してもいないのに訪れてきた霊能者。

 キャラ描写割愛。

 ともかく彼女(女性だった)によると、昔この辺り一帯は古戦場だったとか何とかで、そこで亡くなったたくさんの兵士の霊がそこかしこにうろついているのだという。慰霊碑を建ててきちんと供養すれば、彼らの無念も晴れるだろう、と。

 慰霊碑の敷設ふせつに関しては、彼女を通して経費を払えば取り計らってくれるという。

 検討する時間を貰ってその日はお帰りいただき、後日開かれた自治会の会合で聞いたところによると、その費用はなかなかの高額だった。住民からカンパを募るという意見も上がったけれど、ギリギリ反対意見のほうが過半数を上回った。そもそも古戦場だったというのが信じられん。いつの話だ。証拠見せろ。

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