第44話

 それから女を買ってほぼ喋らず済ますようになる。無言で服を脱がし、口を窄ませて吸い付き、胸や秘部を触り、舌を這わせる。たまに何か聞かれても「うん」とか「そうだね」で終わり、暗い部屋には蜜のしたたりや嬲る音、女の嬌声が聞こえるばかりで、まるでテレビでも観ているような感覚だった。受容される五感さえどこか空々しく感じ、これまで得ていた充足感は途端に欠落していって、義務的な行為の末に果てる。後悔が、多く残るようになった。



 事が終わり外に出ると、懐が軽く、荒む。紙幣の厚みが目減りしていくにつれ命が削られていくような気持ちになり、もっと金を借りなければと思うようになっていた。膨らむ借用額を見ぬように努め、酒を飲み、女を買った。得られる物は何もなく、散財により徐々に首が締まっていくのを考えぬようにして、無闇に薄くなった快楽を求める。もはや意味も意義も見失い、借りた分だけ散々に使い果たし、部屋の中で泣き叫ぶような真似をして過ごした。狭い部屋で普段出さない声を聞くと、本当にこれが自分のものなのかと疑心暗鬼となり、もしかしたら僕はもう僕ではないかもしれないだなんて空想を巡らせるも、結局僕は僕であり、何者にもなれず、孤独だった。


 布団抱かれて誰かに認められたいと、僕を見てほしいと願う。叶うはずのない望みが、日毎に大きく、制御できなくなっていく。



 狂いそうになり、木内が居なくなってはじめて、あの中年女の店に行こうと思った。あの女ならば、僕に何か話をしてくれると思った。木内なり誰なりの誹りでもよかった。僕がいると認識して、声をかけてほしかった。


 週末、夜の浅い時間。女の店からは薄い明かりが漏れていた。入り口を覗くと、やはり煙草を燻らせていた。

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