いつもとは違う格好にときめいたりもする。

 俺がいつものように家で作業をしていると、ガチャリと鍵の開いた音がして悠が帰ってくる。今日は平日で学校に行っていただけのはずだが、ずいぶんと帰りが遅い。

 おそらく友達と遊んできたのだろう。わざわざ咎めることでもない。


 だが、珍しく俺の部屋に来ることなく自分の部屋へと戻っていった。

 どうしたのだろうかと疑問に思いながらも、あまり過干渉になって嫌われたら立ち直れる自信がない。不安を感じながらも放っておくことにした。


 しばらくすると、コンコンとノックが響いて、執事服を着た悠がやってくる。


「なにそれ……?」

「今日友達と男装喫茶に行ってきたんです。それで、私もやってみたいなと思って。」


 いや、どんな行動力だ。


「友達とドンキ行ってきて、執事服とかコスプレグッズ買ってきたんですよ。」

「へー。ほかに何あるの?」


 悠に連れられて彼女の部屋に向かうと、チープな作りのスーツや男装用のウィッグなどが並んでいる。


「眼帯……?」


 一時期白鯨がつけていたような真っ黒の眼帯。薄い生地で出来ているようで装着しても視界を塞がないコスプレ専用のグッズだ。


「これ、俺のシャツじゃないか?」

「そうですよ。洗濯したやつ一枚借りますね。」


 執事服に眼帯を付けて玩具の刀を携える。普段よりも高い位置で髪を結んでおり、漫画のキャラクターのようにも見える。俺が感動していると、悠のスマホが鳴った。

 どうやら写真が送られてきたようで、白鯨の隣にピアスを開けた少年が笑っている。


「は?これが姫蘭なのか!?」

「うわ。すごいですね。」


 わざと着崩した男子用のコスプレ制服に加えて、胸にサラシでも巻いているのだろうか。白鯨が中腰で立っていて姫蘭の方が大きく見える。まるでおやじ狩りの現場だ。

 唇のピアスは穴を開けなくてもいい、おしゃれ用のものだと思われる。


 続いて送られてきた二枚目は、ウィッグとシールを付けているのか、傷だらけのヤンキーといった風貌である。腕に刻まれた龍のタトゥーがかっこいい。


「姫蘭、めっちゃイケメンじゃん……。量さん、私のことも撮ってください!!」


 珍しくはしゃいだような声をあげて、ポージングを決めている。

 顔の輪郭がおっとりしているせいで男らしさというものがないが、本人が楽しそうならばそれでいいだろう。だが、撮った写真を見せるとがっかりした様子で見ている。


「姫蘭にコツとか聞こうかなぁ。」

「もっと服を緩めて、体を大きく見せたらいいんじゃないか?」


 あいにく、サラシまでは用意できない。

 下からではなく上から取ることで体のラインを誤魔化し、ピントの中心を逸らすことで柔らかい視線をぼかしてみる。どうしても男らしさは出ないが、中性的な印象は受けるだろう。


「悠は目元が優し気だから、ほら手拭いで隠したらどうだ?」

「領いk……「ちょ、それはまずい!!」


 手拭いはいろいろとよくないので、あえて髪下ろして不気味さを演出してみる。


「ほら、お嬢様を監禁してそうなサイコパス執事っぽいぞ。」

「それ絶対に誉め言葉じゃないですよね!?」


 その場合監禁されているお嬢様は俺なのだろうか?いや、何馬鹿なこと言ってるんだ。


……to be continued

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