身内の恋愛事情とか知りたいよね。いざ知ると気まずくなるけど。

 エンジニアのデスマーチ第一陣も終了し、そろそろ第二ウェーブが来る頃。12月に差し掛かる頃には年末の仕事納めに向けたシステム開発はもちろん、翌年から開始のウェブサイトの開発が激化するのだ。


「大事な時期だってのに、白鯨は電話に出ないんだ!?」


 おそらく来週の月曜からは、また部屋にこもって仕事尽くしになるだろう。

 つまり、ゆっくりできるのは今日が最後だというのに、白鯨と連絡が取れないのだ。


「さっさと用事を済ませて悠と出かけたいんだけどな……」


 仕事の連絡であるために、軽い気持ちで後回しには出来ない。

 ため息をついて白鯨からの折り返しを待っていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。部屋から出ると、すでに悠が応対していたようだ。


「姫蘭……!?」

「量お兄ちゃん、どうしよう……」


 瞳を潤ませ、やってきたのは白鯨の妹、姫蘭だった。


「ど、どうした!?」


 もしかして白鯨の身に何かあったというのだろうか。

 たしかに、ゲームにログインしているわけでもないのに彼と連絡が取れないなんておかしいと思っていた。アイツはコンビニに行くのだって時間がかかるから、外出するときは必ずスマホを持つ。

 ましてや、現金やクレカを持ち歩くことはなく、たいていスマホで支払いを済ませるのだ。


「白鯨になんかあったのか!?」

「姫蘭は大丈夫なの!?」


 へたり込む姫蘭に俺たちは駆け寄る。

 肩を振るわせ涙を零すばかりで声が出せないようだ。


「お兄ちゃんが、悪い女に騙されてるかもしれないの!!」

「……はぁ?」


 女性恐怖症の白鯨が美人局?ひどいときは自分の妹すら信じられなかったアイツが、いまさらどうしてそんな原始的な詐欺に引っ掛かるというのだろうか。


「悪い女って……?」


 悠もにわかには信じがたいのだろう。恐る恐るといった様子で訪ねた。


「女の名前は、沢田光。お兄ちゃんの自称弟子の女狐よ!!」


 女狐て……。


「なんで光が白鯨さんを騙そうとしてるの?」


 白鯨からプログラミングについて教えてもらっている女子高生であり、姫蘭とは中学時代からの仲だと聞いている。今は、悠と同じ通信制高校に通いながらエンジニアの仕事をしている娘だ。


「ちょっとまってくれよ。白鯨と光が会ったのはつい最近かもしれないが、二年以上前から付き合いは合ったわけだろう。なんで今更……?」


 もし金を無心しているというのなら、騙そうというわけではなく何か事情があるのかもしれない。というか、十中八九そうだろう。白鯨だって馬鹿じゃないし、女に対する警戒心は人一倍強い奴だ。

 騙されているとすれば、それを承知で黙っているだけの事情があるのだろう。


「お金とかじゃないけど、最近、お兄ちゃんが出掛けることが多いの。」

「……え、それで?」

「お仕事が忙しい時期じゃないって聞いてるのに、あんなに出かけるのはおかしいでしょ?」


 仕事が忙しくないからこそ出掛けるんじゃないだろうか。とは思ったが、確かにあの出不精が頻繁に外出するのは違和感がある。ということは、電話に出なかったのも何か関係しているのだろうか?


「ありがちなのは、誕生日のサプライズですけど……」

「私の誕生日、三月だよ?」


 4か月も前からサプライズの準備なんてするはずがないだろう。


「サプライズ説はないか……?」


 三人で首を傾げていると、渦中の白鯨から電話がかかってきた。


『もしもし、何か連絡があったみたいでござるから、折り返したでござるよ。』

「ああ、ちょうどよかったお前今どこにいる?」


 白鯨からの電話だと気づくと、姫蘭は目を見開いた。

 悠がジェスチャーでどこにいるかを聞けというので、それとなく尋ねてみると、光と一緒に駅前のショッピングモールに来ているらしい。何か買いたいものがあるのだという。


「わかった!!今すぐそっちに行って目を覚まさせてあげるね、お兄ちゃん!!」

『あれ、姫蘭の声……!?』


 止める間もなく彼女は飛び出していった。


……to be continued

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