運動不足のくせしていきなり動くとこうなります。準備体操はしっかりね。

「負けませんよー」

「おお、これでも卓球部だったんだからな?」


 翌日、昼食を食べ終えてしばらくした後。

 ソファやテレビの前に置いていた背の低いテーブルを端に寄せて、キャンプ用品の折り畳みテーブルを設置する。その上に卓球台のネットを取り付ければ、簡易卓球台の完成だ。


「量さん、準備体操しないんですか?」

「まぁ大丈夫だろう。」


 久しぶりとは言え、卓球部として三年間活動していた。確かに大会などは出ていないし、まともな練習をしてこなかった幽霊部員だったが、それでもその辺の文化部よりは体力があるつもりだ。


「じゃあ、サーブ行きますよ。」


 カンコンカンコンと軽快な音が続く。

 卓球の経験は、中学生時代の授業でやった程度だという割には、悠は筋がいい。もちろん、素人の構えで狙いは危ういが、経験者の俺からすると返せるレベルだった。


「そういえば、白鯨も卓球部だったんだけど……」

「雑談する余裕があるんですね。」


 声を掛けると驚いたのか少し強めにボールが返ってくる。威力を殺して打ち返すと、また同じような強さに戻った。


「アイツは、途中でいきなりスマッシュを決めるからやりにくかったなぁ。」

「スマッシュ?」


「そうそう、こんな感じにな!!」


 カンッ!!


 一際強く打たれたボールが悠の方へと飛んでいく。

 どうにかラケットに当たりはしたものの、ボールはただ弾かれたのみで空中を飛んで悠の背の方へと落ちていった。


「悠もやってみるか?スマッシュ」

「いいんですか?やってみたいです!!」


 袋に入っていたほか二つのボールもとってきて、またサーブを始める。適当に何度かラリーをしてから頃合いになった頃で少し強く打って合図を出す。


「やぁ!!」

「少し遅いな。構えすぎかも」


 ポケットにしまった次のボールを用意して、ラリーを始める。またスマッシュの合図を出すが、今度は早すぎて威力が弱く、ネットを越えなかった。


「結構難しいんですね。」

「そうだな」


「ほら、次行くぞ」


 最初は弱めに、打ちやすいようにと少しずつ返す威力をあげていく。

 だんだんタイミングを掴んできたようで、軽いスマッシュを打ってきた。「今のはどうですか」という目を向けてきたので頷いて返すと、かすかに頬を緩めた。


「次行けるぞ」

「ハイ!!」


 振りかぶったラケットはボールの芯を捕らえて軽い音を鳴らす。

 完全にスマッシュが決まって悠がガッツポーズをすると、意地悪な俺はそのボールをさらにスマッシュで返した。唖然とする悠に笑みを浮かべると明らかに不満そうな顔尾を浮かべる。


「量さんって本当に意地悪ですよね!!」

「アハハ、ごめんごめん。今度はちゃんとやるから。」

「むぅ……。信用できないです。」


 それからしばらくカンコンカンコンと卓球を続けていた。

 仕返しのつもりか覚えたばかりのスマッシュを連発してきて、返すのが大変だったことも併せて話しておこう。




 余談

「悠ー助けてくれ……。腰が……」

「だから準備体操はした方が良いって言ったんですよ?」


 テレビから這い出る貞子のようなポーズでベッドからずり落ちる。

 手足の筋肉痛と腰の痛みでまともに起き上がれないのだ。悠の補助を受けながら、何とかダイニングまで歩いたはいいが、生まれたての小鹿のように震えている。


「もう二度と卓球はしない。」

「えー、面白かったんで定期的に付き合ってくださいよー。」


 次やるとしたら、必ず準備体操が先だ。


……to be continued

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