社会人は運動不足になりがち。

 風呂上り、悠が使ったであろう体重計が出しっぱなしになっている。普段だったら何とも思わずしまっておくのだが、少し膨らんだ自分の腹を見て自分の体重に興味がわいた。


「よいしょっと……。え?」


 確かに最近、悠の手料理がおいしいからと言って食べ過ぎた自覚はある。けれど、まさかここまで増えているとは思わないだろう。ダイエット?できる気がしない。

 たしかにここ1週間、食べては寝てを繰り返していた。太るのも納得だ。


 白鯨の仕事の手伝いをしていたとはいえ、家から出ることはほとんどない。なんだかんだ、駅まで歩いたり営業先を回ったりするのが、それなりの運動になっていたのだろう。


「悠、さっき体重計に乗ったら6kgも増えていた……。」

「そうなんですね…?大丈夫です、私も2kg増えてましたよ。」


 まだ若い悠の2kgと、30手前のおじさんの6kgでは二つの意味で重みが違う。

 どんよりとした顔で椅子に座ると、目の前にはきれいな色をしたアジフライが並べられる。黄金に輝く衣に、魅惑の白米。抗えなかった。


「ごちそうさまでした。」

「ふふ、おいしかったですか?また作りますね。」


 結局アジフライをおかわりして、みそ汁も3杯飲んでしまった。

 ご飯も大盛りにしたので食事制限をしようという気はサラサラない。


 悠の料理を残すなんてことはあり得ないし、我慢するつもりもない。けれど、彼女のためにも健康で長生きをしたいというのも事実。


「明日、スポーツ用品店でも行ってくるかなぁ」


 悠を連れて、ショッピングモールへと向かう。夕飯の買い出しついでに室内でできそうなトレーニング器具を見繕うのだ。


「ダンベルとかいいかもなぁ。」

「ええー。量さんが筋肉マッチョマンになるの嫌ですよ。」


 誰もそこまで鍛えるつもりはない。というか、引きこもりニートに成り下がったうえ、筋肉ムキムキのゴリラが、年下の女子高生に甘えるとか……。ある種の事案だろ。


「けど、たぶんダンベルは家にあるんだよな。」

「ああ、部屋にありましたね。ただの飾りでしたけど。」


 というわけでダンベルは却下だ。


「ランニングマシン、結構安いんだな。」

「スペースをとって掃除がしにくくなるのでダメです。」


 実質我が家の家計を握っているおかみからNGが出てしまった。……手入れのしやすさまでは考えていなかったな。


「倒れるだけで腹筋……

「怒られますよ!!」


 あちこちを見て回ったが、これと言ってピンとくるものはない。

 トレーニング用品のコーナーからスポーツ用品のコーナーまで来てしまった。サッカーボールや野球ボールが並んでいるが、室内では無理だろう。


「あ……」

「卓球か。」


 壁に並んでいる子供用の卓球セット。

 ラケットが2つにボールが3つ、テーブルに設置できる簡易ネットが入っている。子供用をうたっているだけあって値段は大したことがない。


「悠、卓球できる?」

「中学の体育で少しだけ。」


 これでも俺は高校時代、卓球部の幽霊部員だった。顧問がいない時だけ遊び半分でやっていた。かなりブランクがあるが、運動不足解消にはちょうどいいだろう。


 悠と戦うのが楽しみだ。


……to be continued

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