厨二病でもお友達が欲しい。あと、仕事はちゃんとしてます。

 パソコンの前に座って、キーボードをカタカタと打ち鳴らす。いつも遊んでいるように見えたかもしれないが、仕事を辞めたあとは、フリーランスで仕事をしている。


 簡単なシステムであれば、どこか開発系の企業に頼むよりも、仲介サイトを通じて個人ブログラマを頼った方がコストを抑えられる。

 逆に、俺たちプログラマーは非合理な縛りを課せられることがないため、動きやすく稼ぎやすい。


 今回請け負っているのは、とある企業のホームページの作成であり、先方からデザインの指定もされてるため、完全にコーディングだけだ。


「量殿、こっちのコードはこことまとめられるのでは?」

「でも人に見せる時はここに流した方が見やすいじゃん。」

「えぇ、そうでござるか?」


 背後にたった白鯨が、コーヒーカップ片手に首を傾げた。昔から短くコンパクトなプログラムが好きな彼とは、コードの書き方で合致したことは無い。


「このデザイン指定がされてるってことは、こういう動きをして欲しいってことだろ?だから必要なんだよ。」


 マウスを動かしながらホームベージの流れを説明してやったが、どこか不満そうだ。


「うーん。どこか余分なコードがある気がするんだよなぁ」

「そう言ってもな……。」


 白鯨はいわゆる天才肌というやつであり、自分のコードを口で説明できないタイプだ。それでも他人でも理解しやすくバグの少ないというプログラミングができる男だ。

 逆に俺は筋道を立てて1つずつ問題を潰していくような方が得意である。


 いつの間にかコーヒーは炭酸水に変わっており、居座る気満々のようだ。


「量殿、携帯鳴ってるでござるよ。」

「ほんとだ。ちょっと出てくるわ。」


 電話の相手は悠のようだ。

 時刻は五時近くであり、おそらく学校が終わったのだろう。少し暗くなってはいるが、迎えが必要なほどではないはずだ。


「悠、どうした?」

『量さん、今日友人が遊びに来たいと言ってるんですけど、大丈夫ですか?』


 何でもない日ならば構わないが、今日は白鯨が来ている。

 対人恐怖症で女性が苦手な彼にとってみれば、地獄みたいな環境だろう。かといって、いきなり帰れというのも申し訳ない。


「悪い、悠。今日は白鯨が来てるんだ。」

「ああちょうどいいですね。姫蘭も一緒ですよ。」


 白鯨の妹であり、唯一彼が触れることのできる女性、姫蘭も来るらしい。そういえば、最近共通の友人がいることを知ってからショッピングに行くようになったと話していたな。


「まぁ、それなら大丈夫か?」


 白鯨に姫蘭が来ることを伝えると、どこか嬉しそうにダイニングを片付け始めた。

 いや、ここ俺の家なんだけど。なぜかもてなす側に回っている。


「ちょっとコンビニ行ってお菓子買ってくるでござる。」

「いや、それ、俺の役割だろ。家主俺だぞ?」


 止める間もなくコンビニへと出かけてしまう。白鯨はかなりの優柔不断で、おそらく30分は帰ってこれないだろう。一応、近くのコンビニまでは5分で着くんだがな。


 8割は完成したホームページとにらめっこをしながら悠たちを待っていると、ガチャリと鍵の開く音が鳴った。帰ってきたのだろう。

 友人たちと雑談をしながらリビングまで向かうと、姫蘭ともう一人の友達をテーブルに座らせたようだ。


 悠だけが俺の部屋へと向かってくる足音がして、すぐにノックが鳴らされる。


「ただいま帰りました。少し騒がしくなりますけど、大丈夫ですか?」

「ああ、気にしないで。今白鯨がお菓子買いに行ってるから。」


 またしばらく待っていると、今度はインターホンが鳴らされる。


 部屋から出ると、すでに三人は悠の部屋に行っているようで、ダイニングにはだれもいない。玄関に向かうと、袋をパンパンに膨らませた白鯨が待っている。


「お前、ずいぶん買い込んだな。そんなに食わねぇだろ。」

「こっちは家用でござる」


 悠の部屋をノックしてお菓子の袋を持っていくと、姫蘭が飛び出してきて白鯨の方へと向かっていった。


「お兄、昨日洗濯物そのままにしてたでしょ。お母さん、怒ってたよ。」

「そうでござったか?気づかなかったでござる。」

「いや、その話は家でやれよ。」


 思わず、突っ込みを入れると、悠の後ろに立っていた女の子が声をあげた。


「その声、師匠ですか?」

「師匠……?」


 少女以外の全員が首を傾げると、姫蘭の元、正確には白鯨の下へと歩いていき……


「鯨総長ですよね!?私、ヒカリです。いつも面倒見てもらっている!!」

「……ああ!!プログラマ初心者の子か。」


 白鯨の反応に対して悠だけが納得したような表情を浮かべているが、俺たちは状況が分かっていない。とくに、姫蘭は両方に不信感を丸出しにしていた。


「私実は、鯨総長の下でプログラム教えてもらってるんです。」

「あまりに雑なコードをアップしてるものだから気になったんでござるよ。」


 ある程度の概要を説明されて理解はしたが、姫蘭だけは厳しい表情を崩さない。

 見せつけるように密着しているが、ヒカリは意に介した様子もなくプログラムの話を始めてしまう。


 意外なところにつながりがあって驚いていると、どうやら悠は両方の事情を知っているためなんとなく気づいていたらしい。妙に感がいい娘だ。


……to be continued

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