ショート:通信制の高校について調べたら、広告がそれ関係ばっかりになりました。

「今日からみんなと一緒に勉強することになった泉 悠さんだ。じゃ、軽く挨拶して。」

「はい。泉 悠です。勉強は少し遅れていますが、少しでも早く皆さんに追いつけるように頑張ります!!」


 一見普通の教室でありながら、規則正しく並べられた机に座る生徒たちは、一般的な教室からすると異質であった。髪を染めた目つきの悪い生徒もいれば、スーツ姿の男もいる。一番前には髪の薄い老人やどこにでもいるような主婦らしき女が座っていた。


 並べられた机たちからはみ出した空席に案内され、悠はそこへ座る。おそらく、急ごしらえで用意されたのだろう。ほんの少し埃っぽい。


「はじめまして。悠ちゃんって呼んでいい?多分同い年だよね?」

「あ、うん。よろしく…」

「私、沢田 光サワダ ヒカリ。よろしくね。」


 満面の笑みと握手を求めてきたのは、隣に座る女子生徒。どこかの高校の制服を着ており、首元から垂らされた低いポニーテールの少女だ。机のわきにかけられたカバンは、悠が使っているような背負うタイプのものではなく、どちらかといえば社会人が持つ手提げのものだった。


 一見普通の高校にいてもおかしくないように見えるが、彼女にも事情があるということだ。


 結局悠は、量との問答の末、この通信制高校への入学を決めた。基本的にほかの生徒と同様に授業を受けるが、最初の数か月は彼女だけ授業数が多い。というのも、入学時期がずれているため当然である。


「制服、買わなかったんだ?ここ、ダサいもんね」

「うん。別に買わなくてもいいならいらないかなと思って…。」


 量は買うつもりでいたが、制服の購入率が低いことと、悠がかたくなに拒否したため買わなかった。それ以外のカバンや文房具はほとんど新調した。


 授業は原則50分、10分間の休憩が設けられており、おおむね全日制の学校と変わらない。しいて違いを挙げるとすれば、ほとんどが各自課題を進める形式であることだろう。

 もちろん、わからないところや間違えたところは先生が教えてくれるが、一般的に想像する授業が行われることはない。録画された映像で授業を受けるのが原則であり、学校での授業時間は映像を見る時間もしくは、課題やテストの時間である。


 しばらく勉強から離れていた彼女にとって、最初から形式ばった授業ではないというのはありがたかった。


「じゃあね、悠ちゃん!!」


 あっという間に放課後を迎え、光は足早に駆けていく。それぞれが慌ただしく教室を出ていく中、ガラの悪そうな生徒が赤ん坊を連れてノートを広げ始めた。少年の後ろには長い金髪の女性が立っており、一緒になって一つのスマホで映像授業を見ている。


 悠の視線に気づいたのか、二人がペコリと頭を下げた。頭を下げ返しながら後ろを通って教室を出る。去り際に、「じゃあね。また明日」と声を掛けられたが、頷くだけで返事は出来なかった。

 彼女の父は、二人のような生き方を「底辺のクズ」と蔑んでいた。けれど、幸せそうな彼らの姿を見て、そして何より目つきの悪い青年に抱かれる赤ん坊の姿を見て…


「羨ましい…。」


……to be continued

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