第57話ギィル

アルネリアらは既に奴隷商人に受け渡されていた子供らの救出へ向かうと言っていた、ギィルは二人と別れたあと、元いた孤児院へと戻ろうか悩んだ

売られた孤児院へ戻る理由は帰る場所がそこにしかないからではない


復讐するか、どうかだからだ。それを悩んだ


しかし、今はそれは出来ないと思い、もともと住んでいた貧民街にあるボロ家に戻った


良かった、まだ誰にもこの場所はとられていない


ここには、物心ついた時から仲間…数人の子供たちと一緒に住んでいた

家族同然の仲間だ


そしてそれをぶち壊された


アイツらは絶対許さない


あいつ等とは孤児院を管理とも呼べない管理をしていた連中の事だ

食事は一日に一回、水浴びどころか体を拭くための水すら満足に得られない

掃除もされない汚い部屋に押し込まれ、逃げ出すと連れ戻される


あれは牢獄と変わりない

だが外にいるよりはマシだった

それでもごはんが食べれるから


おそらく、だがギィルは現在10歳になるかどうかだろう

自身年齢がわからないのは教えてくれる人がいなかったからだ


気が付けば貧民街の中にいた。そこで獣同然の生活を送っていた

それまでは小さな子同士集まって、なんとか必死にもがいていたと思う

窃盗、かっぱらいやスリが主な仕事で、それがばれて大人に捕まって孤児院へと連れていかれたのだった



(おう、なんで俺を呼ばなかった)


「うるさい」


(しかも結局俺の名前を名乗りやがって)


「いいだろ、どうせ俺に名前なんてないし、お前は俺なんだろ」


(はぁ、いいけどよ。そんで、どうすんだ?力、欲しいんだろ)


「・・・・・・」


(だんまりか?まったく、こんなのが俺の跡継ぎとはよ)


これは、ギィルの秘密だった


数週間前、突如として脳内に声が響いた

ギィルとそう名乗った


空耳だと疑った、気がふれたかと思った


しかし、そいつは頭の中に確かにそいつはそこにいたのだ


いずれ吸収される、そう言った

そしてそれまで体を鍛えろとも


わずかな時間であれば、そいつはギィルの体を動かすことができた

それで魔力による身体強化を身に着けた


それがギィルを少しだけ、調子に乗らせてしまったのだ


「勝てると思ったんだ」


(はっ、思い上がりだな。あの程度出来た所で強くなったと勘違いしたか)


「だってそうだろ、現に一人は倒せた」


(不意打ちでな)


「力が強くなった、足も速くなった」


(それが身体強化だからな)


「まだ、足りない…」


(そりゃ、そうだ。まだまだ先は長い)


「なぁ、夢で見たんだ。金色髪した騎士みたいなやつにお前は殺されたのか?」


それは回復魔法をうけ、寝ていた時の夢だった


(ん?ああ、そうだったかな…俺も死に際はあまりよく覚えてねぇが、戦った事はよく覚えてる)


「恨んでるのか?」


(恨んでねぇな。負けたのは俺が弱かったからだ…。)


「ほんとに?」


(‥‥いや、恨むっていうよりも羨ましいの方がでけえ。俺の聖剣魔法じゃあいつのに敵わなかった、どうやって超えてやろうか、それを考えている。そしてそれは俺、つまりお前が引き継ぐ)


「もし僕が勝てなかったら?」


(それは夢だ。気にするな)


「うそだ、あの時、お前…笑ってた」


(へっ、良くわかったな)


「負けたのに、なんで笑えるんだ…僕は…辛かった…悔しかった」


(だろうな。俺もお前と同じ立場だったら泣いてんじゃねぇか?)


「そうなのか?」


(ああ、間違いねぇよ。弱っちいままで負けたら悔しいに決まってる。だけどな‥‥俺が負けたはずのあのガキ、ランスロットは俺より弱かった。だが俺は負けちまったんだ…完敗だ。そしたら笑っちまってたんだよ。強くなったと油断してたと気づけたからな、次は油断しねぇ)


「お前、自分より弱いやつに負けたのか」


それはギィルからしても意外だった。頭の中のこいつは、そんなに強いのかとも驚いたのもあるのだが

そしてそれは希望だ。自分もそこまで強くなれるのかと


(どうすんだ?)


それは、心からの問いかけ


「強くなる。あいつらは俺より強い、だから、負けて当たり前だ。だからあいつ等よりも強くなる」


いつのまにか悔しさもどこかにいっていたと思う


(そうだな。なんの努力もしてねぇんだ。辛さとその悔しさは自分に対してだ。きちんと努力して、これ以上ねぇくらいに努力して負けたらそりゃ笑うしかねぇからな)


「そうなんだな」


この日、ギィルは初めて心の中の自分、その魂と一つになっていく感覚を覚えた


(いいか、最初に言っとくぞ。俺が追い求めるのは最強の聖剣魔法だ。夢でどこまで見たか知らんがな…)



ただ、今世のギィルが覚えるのは以前覚えたものと違うらしい

転生と呼んでいいのか、魂が渡り歩いていると言えばいいのかわからないが別の人間だから同じことにはならないと言うらしい

そして、前世で使っていた聖剣魔法は過去を振り返っても最強と言えるものだったと言う


(お前が覚えるのは新しい可能性の聖剣魔法になる。だから俺が出来るのはその基礎を叩き込むまでだ)


「わかった。能力は解放しないとわからないってことだな?」


(ああ、完全にお前の物になると変わる、より強くなっていく傾向にある。だから今もし解放までいけても、俺の使ってたものそのままだ。それにお前の色が付くと思えばいい)


そして、ギィルは一つだけ気になることがあった


あの、金髪の騎士は何者なのかという事だ

それを聞いてみると


(ランスロット、あいつの名前だ。しかし今ここが俺が死んでから何年後かわからないけどな。なんせお前、その辺の知識がねぇからよ)


「孤児に何期待してんだよ…知らないよそんなこと。生きるのに必要ないから。それにしてもランスロットか…凄かったな」


格好が良かった、それを思い出す

ボロボロにやられていたのに立ち上がったあの姿に今のギィルは自分を重ねた

そして、立ち上がることが出来なかった自分と違い、彼は成し遂げたのだからかっこいいとあこがれたのは仕方がなかった



「ん?なに?ランスロット?どこでお父さんに会ったの?」



振り返ると、そこには助け出したのか子供たちを連れたアルネリアが経っていた


あのランスロットと同じ、金髪のアルネリアが

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