第56話アルネリア15歳ー

大陸歴17年、アルネリアが15歳になった時アエリアは新大陸へと転移し、旅立った


まだ幼さを残しているアルネリアであるが、美しいブロンドの髪を見ても分かるように他と一線を画す美少女であることは間違いではない


しかしながらこの頃の彼女を評する言葉として、隠された姫、陰険女、暴力女などとてもであるが一国の姫の呼ばれ方をしていない


それは彼女の行動が原因であるのだが、一方では周りの妬みから来ていると言う者もいるのでどちらが本当なのかは分からない






板を立てかけただけの壁

その隙間から光が差し込んで目を覚ました

体中が痛い

足の先、腹部、背中、両腕

その全てから痛みを感じる

起き上がろうにもその力は沸いては来ない


「ねえ、大丈夫?」


声の方に視線を向けるとそこには一人の女の子が居た


ブロンドの髪色をした、綺麗な女の子だ


「あ…う…」


喉が潰されているわけじゃない

悲鳴の、叫び声の出しすぎでもう声がかれはてているだけだ


「うん、だめねこれ。アシュトー、お願い」


「はいはい、お嬢がやればいいのに」


「私苦手なのよ」


「知ってる」


アシュトーよ呼ばれた青年は毒づきながらでも回復魔法を倒れている少年、僕にかけた


体中を暖かい光が包むと、痛みがどんどん消えていった


「はい、もう大丈夫かな?怪我はもうないと思うよ」


アシュトーの言う通り、僕の体はもう痛いところもない

だけど、起き上がれなかった


「お、おなか・・・すいた」


「あらら。ごはんも食べてないの?」


「うん…もう、三日くらい」


「そっか、アシュトー、お願い」


「はぁ、分かったよ」


アシュトーと呼ばれた青年は家の外に出た


「私の名前はアルネリア、アルって呼んでくれたらいいよ。君の名前は?」


僕?僕の名前…なんだっけ…


ギィル


頭の中に浮かんだ名前

これが僕の名前だろうか?


「ギィ…ル?」


「自分の名前なのに疑問形なの?」


「わからない、僕に名前なんてなかったと思うのに」


「ふぅん。名前がないなんて変だね?」


「貧民街で生まれ育ってる…だから、名前なんてだれもつけてくれなかった」


「そう、でもギィルね。自分でつけたの?」


「うん、あれ?いいや、おかしいな、父さんと母さんが付けてくれた?変だ、僕…」


「記憶が混乱してるの?落ち着いて、まぁいいわ。あなたの名前はギィルね。いい名前じゃない」


「そう?ありがとう…」


何気ない会話だけれども、僕にとってはとても大事なことの様な気がした


「もう少し寝てていいわよ。今アシュトーがごはん用意してくれてるから」


アルネリアがそう言うと、ギィルは気を失うように寝てしまった

そして夢を見た


色々な夢だ


その夢の中で僕は常に戦場に立とうとしていた

そして戦っていた


聖剣魔法?


僕は魔法が使えたのか


極める…だから聖剣・極・解放…


ああ、そうか…俺は負けた


全力だったんだけどな…



美しい金髪をした騎士の姿が掻き消える



瞬間、世界は逆さまになった




「起きれる?ごはん出来たよ」


「うん・・・寝てた」


「そうだろうね、苦しそうな顔してたよ。いきなり多くを食べるとはいちゃうから少しづつ食べるといい」


アシュトーと呼ばれた少年に、肩を貸されて外に出ると

ぶつ切りされた丸太を椅子にして、焚火の上には鍋、スープのいい匂いがギィルのおなかを鳴らした


「ほら、こっちきて食べよ!アシュトーのスープ美味しいんだから」


「え・・・うん、いいの?」


「いいのいいの」


目の前に差し出されたスープにはパンが漬けてあった

それを見て、僕は我慢が出来なくなって奪うように取ってがつがつと食べてしまう


「ああ!ダメだって、誰も取らない、そんなに勢いよく食べたらはいちゃうかもしれないよ!」


アシュトーが心配してそう言った


そんなこと知るもんか、こんな上等なスープ飲んだことない


すぐに皿が空になる


「おかわりいる?」


「いる」


皿を出すとアルネリアがスープを注いでくれる

それを受け取ると、今度は味をかみしめるように食べる


「ちょっとお嬢、この子しばらく何も食べてないんだから…」


「いいじゃないはいたって。おなかすいてたんだよ」


「あーもう、なんでお嬢はこんななんだ…」


「親の教育のたまものね」


「それは…そうだろうなぁ…アリエッタの娘だもんな…」


「あら、私の母の名前はアエリアのはずだけど?」


「はいはい、それはもういいから」


最後の一口を呑み込んだ


「はぁ…ありがとう、美味しかった」


「お、すごい、お礼言えるんだ」


「え?そりゃ…」


「ここに来るまでに助けた子でお礼言えた子いないんだよ?まぁ君が最後の一人だけど」


思い出してきた

ここには貧民街の孤児院から連れさられた子供が集められてた

奴隷として売られるためだ

ギィルは反抗的な態度もあって、昨夜数人の男から暴行を受けた

だから一人だけ捨てられていたのだ


「あの子たちは?」


「もう送り返したよ。お礼言わないんだよ」


少しだけ怒っているアルネリア


「それはしょうがない、まだ拾われてきたばかりで教育されてないから。代わりに僕がお礼を言う、ありがとう」


「どういたしまして」


「それにしても売られると思ってなかった」


「売られたの?」


「うん、僕らは孤児院にいたんだ。そこの園長に売られたみたいだ…気が付いたら縛られてたから。そういえば、奴らは?」


奴ら、とはギィルと他の子を売ろうとしていた男たちの事だ


「お嬢がボコボコにして憲兵に差し出してます」


「え?あいつらを?君、凄いんだね…」


「アルネリア、アルでいいけど」


どうやらこの綺麗な娘は名前で呼ばれたいらしいと気づいた


「アル、すごいんだね」


「へへへ、そりゃぁ鍛錬してるからね!」


金色の綺麗な髪を振り回しながら照れて居る

どうやら褒められ慣れていないのかもしれないとギィルは思った


「さあ、お嬢も食べましょう。ここは街じゃないから野盗が来るかもしれない」


「そうね、まだ朝だけど油断できないか」


そう言ってアルネリアとアシュトーも朝食に手を出す


ギィルはろくに今までごはんを食べていないせいか胃袋が大きくないのでもうおなかはいっぱいになっていた




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