第55話ロッツの街6

過去の遺物である、石の建築物

それらが風化して崩壊寸前になっている


様々な様式で建てられたそれらを身を隠す場所と、魔法除けに使用する


そして20万もの兵士は統率が取れた動きをして、囲うようにロッツの街ごと取り囲む


まるでそれは一人も逃さないという意思表示の様だ


怯えるように、20万人に取り囲まれた兵士達は街の中に引きこもる


「籠城か、まぁそれしかないな」


ロッツの街の城壁は高い

そしてぐるりと街を囲っている

元々あった扉は閉ざされ、そこには鉄扉が打ち付けられていた


アールギィ伯爵軍の指揮官は魔法隊を前に出す


「まずは一発小さめのを打て」


「はッ! 魔法・ファイアショット!」


本当に小さめの火の矢が街へ到達する

すると白く輝く壁のようなものに阻まれて火の矢は打ち返されて魔法を放った者の所へと返ってくる


「ふむ、やはり反射系か。であれば魔力支柱を破壊するまでは攻撃魔法は使えんな」


その後、岩を投げつけるがそれすらも反射される


十分な防御力をもつ結界の様だった


「なるほど、この状況になるのを見越して準備していたか…さすがだなトリギュラ男爵」


それは周りの貴族に攻め込まれる可能性を考えて街を構築していたという証明であった

たかが、ではない。奴隷を開放すると決めた彼はいつか国すらを敵に回す可能性を考えて準備していた


「しかし、20万とは恐れ入るな…持久戦になれば、此方の分が悪い。食料が外から補給できない以上、どうにもな」


トリギュラ男爵は嘆息する


しかし、彼は見た。冒険者だろうか?

二人ばかりの人間が城壁の前に歩いていくのが見えた


「ん?街の中から出たのか?内側からとはいえこの防壁結界を抜けるなど…敵軍なのか?」


それにしては、街の外へと歩いていくのが見える


敵軍に向かって


そして彼は知る


アエリアと、ナターシャという二人の最強を







「さていこうか、ナターシャ」


「そうですね、アエリア…」


聖剣顕現からの、開放


そこまではいつも通りだ


しかし、盾の数が膨大であるもはや数える事もできないほどに


アエリアが右手を掲げる


腕輪が輝くと、万を超える兵士が現れその盾を取った



「この世界における全ての英霊、それが今、破軍の腕輪によって顕現した」


ナターシャの盾を持つと、それは彼らの元の姿と言わんばかりに各々の武器を


「顕現させよ」


アエリアの声にこたえるように兵士は聖剣顕現を行っていく


物言わぬ兵士だ、だがその目は燃えている


ずらりと綺麗にならぶ彼らの持つ武器もまた、さまざまだ


魔法によるバフが飛び交っているのも確認できる


その中には、ここに居る誰も識らない、アエリアさえも知らない魔法でバフを行う者もいた


「行くよ、追加詠唱・刃天火」


アエリアの背に炎の翼が産まれる

そしてアエリアが剣を一振りするとその先から炎が迸って敵軍を貫いた


兵士たちも一斉に、見えない程の速度で走り始めて即接敵する


各々の聖剣により敵を、アールギィの兵士たちを蹂躙していった




そんな存在しなかった兵士に襲われるアールギィの軍はたまったものではない


「な、なんだ、どういうことだ!?あいつらはどこから現れた!それに・・・なんだあの武器は!魔剣か!?」


一振りごとに発生する魔法と思われる攻撃にみるみる兵士は切り取られて行く


「くそう、冒険者どもはどうした!」


指揮官は慌て、ふためく


トス


トストストス


軽い音が響いた


「かふっ」


見れば彼の肺の部分に矢が刺さっているのが見えた


ゆっくりと、首を回す


するとそこにいる全員に矢が刺さっている

外れている矢は1本もない


まさかと思ってみてみれば、遠く、豆粒の様な人間が矢を放っているのが見えた


「うそ、だろう?」


ココには防壁魔法も幾重に展開されていたはずだ

それが全く役に立っていない


彼はそれ以上確かめる事が出来ずに、そのまま倒れた


ダッソと言う冒険者の持つ武器、それは魔剣と呼ばれる類の物だ

振るうものの能力を数倍にはね上げる

そして、欠けることのない刀身に、恐ろしいまでの切れ味だった



「くそがっ!なんでこんな盾が切れねぇ!」


今までであれば、まるで布でも裂くように軽く切れていた剣

それがこの兵士の持つ盾の前では全く役に立っていない


それでも現状、4名をほど単独で倒しているのだからダッソは一流だと言える


なぜならば他の兵士は成すすべもなく倒されていっているのだから


戦闘開始からわずか20分ほどだった


当初20万人いた兵士はすでに10万を失った


それどころか、司令部などはすでに壊滅しているという


ありえない程の強さを誇る兵士達


それに抗い、なんとか生存を許されているのだ


「ちょっと、ダッソ!ファニーが斬られて重症よ!あとフルブも魔法みたいなのにやられた!」


「リン!無事だったか!」


二人は今岩陰に隠れて、仲間にポーションを飲ませている


「まて、クルスはどこだ?」


「クルスは…居ないわ…」


「まさかやられたのか!?あいつは俺たちの中でも一番強いんだぞ?」


リンの表情が暗くなる


「わた、私見たのよ…赤い翼を生やした、真っ赤に髪が燃えている女…あいつが、クルスと剣を交えた瞬間にクルスは燃えて、本当に燃えて消えたの…」


それなら、ダッソも視界の隅で見た


赤い炎を上げて飛ぶ様に走っている女を


それを避けるように戦っていた、そしてかなり距離を取ったと思った時、白いドレスを着た化け物を見た


金髪の綺麗な女だった


両手に手甲、そして彼女を護るように回転している盾を持つ女だった


拳を振るうだけで衝撃波が全面を薙ぎ払っていた


こちらこそ、見えない速度で移動していたと思う

思うというのは、ダッソも見えなかったからだ


「こいつは、もう駄目だな…負け戦だ…白旗を上げる」


街を取り囲んでいた時には、まるで勝利が決まった様な気がしていた


しかし、それは幻想であったと。今なら言える‥‥



そして、20万人いた兵士は、わずか数千の人間を残して全滅した

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