第25話宴の裏側で

屋敷の裏でツィーグ・ミオマからヴィスワインの入った酒樽を受け取り、ロープで固定していた時だった


表ではまだ宴が行われており、小さいながらも賑やかな声が聞こえてくる



「アエリア様、屋敷に帰るのは明日ですか?」


「そのつもりだが、マリアはまだ居たいのか?」


「えーと、まあすこし、居たいですね」


「ふふ、随分ここが気に入っているな」


「ええ、私、あまり母と関わった記憶がないんですよね…」


「なるほど、サァラさんにやられたか」


マリアにも、我が娘の様にサァラは優しい。

騎士として育てられていたマリアには随分と響いたようだ


一緒に料理をしたり、皿洗いにしてもあの人は自分でやる。そして貴族とは思えない程に皆に優しいのだ


それはツィーグにしても同じだが、マリアにはサァラが理想の母親にでも見えたのかもしれない



そうこうしていると、あの三人組が現れる

マチルダ、トーマス、タラント

三人はおずおずとアエリアに近寄ってくると


「あ、あの、アエリア様…」


マチルダが一歩踏み出し、アエリアの前に行く



「申し訳ございません!」


頭を下げて謝罪しはじめた

後ろにいる二人も頭を下げている

さすがのアエリアも急に謝られても心当たりがない


「ほう、どうしたマチルダ。君に謝られる覚えなどないのだが?」


するとマチルダは、ふるる、と震えながら言った


「お、幼い頃にアエリア様に、わ、わた、わたしは!」


そこまで言った所でアエリアは色々と察して、マチルダに近づいてからそっと抱きしめた


「気にするな、私は気にしておらん。だから泣くのをやめたまえ、君に涙は似合わんよ」


そう言ってギュッと抱きしめて、抱き寄せると…




「マリア!」



「はい、気づいていま」


そこまで言ったところでアエリアはマチルダを抱きしめたままに後方に飛びながら物理結界を展開する


「はぁ……めんどくさい」


剣を片手にした黒ずくめの男が嘆息する。その剣はマチルダに突き刺さる寸前だった


「ふむ、タラントと言ったか。良い腕だ」


そうアエリアは評する


腰に剣を刺したタラントはその剣を抜き、男に向けていた

それを見てトーマスは一瞬遅れて魔法を唱えはじめた


「くらえ」


トーマスが放つ火弾がその黒ずくめに向かい放たれるが

男は手に持つ剣を振ると。火弾を切り裂いて消し去る



「な!火弾を剣で切り裂くだと!?」


有り得ないとトーマスは驚く


「ああ、ホントめんどくせえ。無詠唱で魔法つかうじゃんコイツ、しかも、剣士の方も殺気に気づいてたし、コイツら予定外に優秀じゃねえか」


「マリア、動くなよ。もう取り囲まれている」


後ろに控えたマリアが動こうとしていたのを止める


「しかし、剣が…」


そう。今のマリアとアエリアは剣を持っていない

それどころかまだドレスを着ているのだから、戦力にはなり得ないとマリアは不安がる


「まあ、しばらく彼らに任せてみよう。なかなか良い動きをしている」



そう言われて、タラントを見る


「はあああ!」


タラントが、右上から剣を振り下ろすと男は左手で受け止める

手甲か何かを仕込んでいるのか、ギィンと音がしてタラントを剣を弾く

そしてその隙を狙い右手の剣でタラントを突こうとするが、それをトーマスは許さない




火弾三連




質量を持つその火の弾が男に襲いかかる


それを男が剣で切り裂く間にタラントは体勢を整えて下段から横薙ぎに斬る



「あぶねえなあ」



それをバックステップでかわしながらさらに放たれて来たトーマスの火弾を剣で切り裂いた



強い


それがトーマスとタラントの抱いた感想だ

二人がかりでここまで簡単にあしらわれるとは思ってみなかった

それも、男は剣一つで魔法すらいなしている



「あの二人、これほど強かったのですか!?」


「良い連携をしてるな。マリアにはああ言う戦い方はまだ無理だろう」


「はい、お互いを相当信頼していないと無理ですよね。しかしあの男、魔法を切り裂く剣など…魔剣ですかね…」



「あれはマリアにも出来るだろうさ、魔刃でな」


確かに魔刃を用いれば魔法も斬ることができる


「と、いう事は……あの男、まさか」



「まあ、しかもその先に行っているな…マリア、身体強化、目を中心に」



アエリアの言葉に従い、目を身体強化する


男はゆっくりと、剣を構える


先程までのだらりとした持ち方を変え、握り締める



「一気に終わらせねーとめんどくせえな……聖剣第一解放…」



そう言うと男の剣が赤色に染まる



それを聞いてタラントが叫ぶ



「まずい!トーマス、結界をはり続けろ!」



トーマスは瞬時にタラントの言う事を理解して結界を張るが


「おせえよ」


そう言うと男の姿が掻き消える


「トーマス!」


タラントが、走るが



ザシュ!



トーマスが展開していた結界を全て切り裂き、そのままトーマスすらも切りつけた



「がっ!」



「トーマス!」


マチルダが青い顔で叫んでトーマスに駆け寄っていく


吹き飛ばされる様に後ろに転ぶトーマスからは血しぶきが舞う


そして男とトーマスの間にタラントが立つ



「お前らの連携、よく出来てたわー。でも魔法使いの練度がイマイチな。次はないだろうが、もしあればもっと鍛えておくんだな」



かかかっと、男は笑う



「ふざけるなよ、お前の目的は何だ!なぜマチルダ様を狙う!」



タラントが吠えた


「ああん?何言ってるか分かんねえなあ。マチルダ?その女の事か?なら、ちげーよ。俺が狙ってんのは、一番後ろの女だ。確か、ランスロットの妹だ」



その言葉に、マリアが反応する

そしてタラントが再び言った



「なぜ、あの人を狙う!」



「あー、あれだ、人質ってやつだ。ランスロのやつ、強えだろ?だから念の為に人質取ってけってなあ!」


再び男が赤い剣を振りかざすが



「やらせない!聖剣第一解放!イージス!」



そしてタラントの剣が輝くと姿を変えて、タラントのその体はあろうかという巨大な盾となる!



白く大きなその盾が男の剣を弾き止める



「うーわ、めんどくせえなお前、シールドタイプの聖剣魔法かよ」




男は心底嫌そうな顔をして、そう言った



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