第11話王都へ

「本当によかったんです?アエリア様」


それには申し訳ないと言う気持ちが篭っていたからか、自信の無い声となって発せられている


「いいんだ、マリア。そろそろ私もあそこ以外を見て回りたいと思っていた所だった」


「ありがとうございます」


今回マリアが急遽呼ばれたのは騎士の試験の為だ


マリアは受ける方でなく、審査する方ではある

護衛騎士は3年に一度ランク付けが行われる事になっている


そして既に師範級のマリアはその審査員という訳である


それと同時に今回は兵士の募集も行われる予定になっていて

その中から優秀な者は騎士として取り立てられるとあってかそれなりに腕に覚えのあるものがやってきていると言う


宣戦布告を受けたサウセスは危機感を募らせ、今まで3年に1度だった試験を毎年行う事にしたわけだ

この動きの速さはなかなかのものだとアエリアは思う



王都へと向かう馬車の中に、アエリアとマリアは乗り込んでいた

揺れる馬車から見る流れる景色は銀狼の背に乗って見る景色よりもかなり遅いが、新鮮に感じて悪くないとアエリアは思っていた


小窓を開けると優しく風が入ってくる


そこにアエリアの横に座るメイドのメアリが水筒から入れた紅茶をどうぞと出してきたので受け取って、香りを嗅いでから一口、口に含んだ


マリアも紅茶を貰うと美味しそうに飲む


アエリアが紅茶が好きなので、マリアも滞在中良く飲んでいた所好きになった


アエリアはメアリにも飲んでいいと伝えると、再び馬車の外に目をやる


離れの屋敷に移されてから10年近く経つ、久々の馬車とちゃんとした外出だ


南の森に行った時は急いだ事もあって、景色を楽しむ事も出来なかったから


アリエッタの記憶にある風景は殆どが戦場だったのでこの外出は少しばかり楽しみにしていた



「ここから王都に行くためには2つの街を経由して行きます。道中の宿はそこのシャル家の屋敷に滞在する事になります」


マリアが軽く説明をする。旅は始まったばかりだ


「マリア、私は知らない事が多い。特に時勢は分からんし、知る者も少ない。色々と教えてくれたら助かる」


「普段とは逆ですね!」


メアリはニコニコとして言う。余程外出出来たのが嬉しいようだ


「メアリ、お前もだ。私は無知だからな、恥をかかさぬように教えてくれよ?」


「え?私もですか?分かりました!お任せ下さい!」



街に着いたら観光しようと言うことになっている


公爵領の隣にある王都までは2日ほどで到着するが、それでも楽しみな旅と言えるだろう


半日ほど馬車を走らせると、本来の屋敷がある街に着く。今回は急いでいる為、そのまま抜け出るが帰りには一度寄って観光して見たいものだとアエリアは思っていた


街の景色を横目に過ぎると、街の外壁へと辿り着く

そこには門番がいるものの今乗っている馬車は公爵家の家紋が付いているので特に検閲もなく、速度を緩めることも無くそのまま通されて外に出た



日が暮れる頃まで馬車を走らせると、次の街が見えてきた。やはり門番は馬車に掲げられた家紋を見るだけで街中へと通される。


その中の大きな屋敷の前に着くと、ようやく馬車から降りられた



「流石に体が硬くなったな…これが明日もかと思えばなかなかにしんどい」


アエリアは馬車から降りるなり、背筋を伸ばし両肩をぐるぐるとまわす


「アエリア様は旅慣れてませんものね」


「そう言うメアリはよく寝ていたな」


「えへへ、すみません。なんだか振動が心地よくて」


あの乗り心地を心地よいと言えるメアリを、アエリアとマリアは素直に凄いと思ったのだった




シャル家の屋敷、ここは公爵家の者が王都に出向く際に利用する休憩所だ

だからと言って貧相なものでは決してない

それどころか下手をするとこの街で一番豪華かもしれない


そんな屋敷には多くの使用人が住んでいる

100人近い使用人は、この屋敷の維持の為、また主が来訪した時のため常に最高の仕事をしている


アエリアらが馬車から降りた時も、入口へずらりと並び頭を下げて歓迎していた


これにビビったのはメアリだ。正直令嬢付きのメイドという者がどの地位にいるか知らなかったのだから


数十人の使用人で作られた花道をその主と共に歩くなどメアリは未経験であったのだから尻込みしても仕方ない



「よく教育が行き届いている」


ずらりとならんだ使用人達は緊張感を持って身動き一つしなかった

それをアエリアは褒め、執事長にそう伝える


「ありがとうございます。アエリア様もご立派になられまして…ううっ」


見ればその老執事は涙を流している

だれだったっけと思いやるが思い出せない


「アエリア様が幼少の頃はここにいらっしゃる時にずいぶんと苦労させられましたが」


そのセリフでああ、と思い出す

そういえばここに来るのが嫌で良く泣いたり暴れたりしていたな


「んんっ、ゴホン、その節は迷惑をかけた」


アエリアにも苦手なものができた

というか、これは多数あるとみていいかもしれない…


幼少の頃にしでかした数々の失敗が今帰ってくるのだから



そして、その最上のものが王都に待っているとはまだアエリア=アリエッタは知らない



その日の夜、観光に出かけようとは言っていたがアエリアもメアリも馬車による疲労でゆっくり休むことにした


どちらにしても明日もこの馬車移動は続くのだ、今ゆっくり休んでおかなければそれこそ王都が観光できないかもしれないと思っての事


「しかし参ったな、ケビンに頭が上がらないぞ」


ケビンは先ほどの老執事の事だ。長らく公爵家に仕えている執事で、当然ながらアエリアも世話になっていた

だが人のことなどほぼほぼ無関心というか、当時のアエリアは使用人の顔などもさほど覚えてなかったのだ

むろん今は会った人間の事は忘れない。それがどんな立場の人間であっても彼女は分け隔てなく接するだろう。だからこそ、先ほど老執事に賞賛を送ったのだから


「すみませんアエリア様、私もそんなに詳しくなくて助言ができませんでした」


「何を言うメアリ、君はおよそ8年私にしか仕えてなかったのだから知らないのも無理はない」


「アエリアさまぁ…」


こうしてみていると仲のいい姉妹に見えるとマリアは思う

だがそれは異質な光景だともいえる


貴族と使用人がこれほどまでに仲良くしている姿なの滅多に見ることがないからだ


それだけでアエリアの器の大きさを感じ、尊敬するあたりマリアもかなりアエリアに毒されているのだがいわぬが花というものだろう



翌朝、それなりに早い時間帯に出立する


朝食と昼食は馬車で食べる為、パンの入ったバスケットをメアリは大事そうに運び込む

三人が馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車は動き出した


ほんの少しだけ進んだ時だったアエリアは窓を開けると


「ケビン!また帰りもよろしく頼む!」


そう言って満足そうに窓を閉めた


「あーあ…ケビンさんまた泣いてるんじゃないですかね…」


メアリがくすくすと笑う

アエリアはそれを聞くと、失敗したなと思いすこしだけ照れた



さて、王都への道というものはきちんと整備されている石畳だ

転んだら痛そうという感想がメアリから洩れるのが微笑ましい

アエリアも幼い頃に数度この道を通り、王都へ行っているが景色を見ていた記憶はあまりない

殆ど馬車の中で寝ていたからなと思う


その昔はこんなきれいに整えられた道は無かった

それどころかそこかしこで戦火は上がり、今日はどこの村が焼かれただのそう言った景色が広がっていた








「アリエッタ!おきろ、アリエッタ!」


ゆさゆさと揺らされて目が覚める


「すまない、寝ていたようだ…カーネリア、戦況はどうなった?」









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