第10話祝福のお知らせ

サウセス王国軍陣営ー


ピシリとした姿勢で声を張り上げる


「我らが兵力2万、あと一刻を持ちまして配置に着きます」


大きなテントの中にある円卓を取り囲む男たち

そこに一人の兵士が報告にあたる


その報告を聞くのはサウセス王国軍の将軍である


100年ほど前、50年に及ぶ戦争があったことを国民の殆どはもう忘れている

それ故、サウセスではこれが精いっぱいの兵力となる


「ノーチェスの兵力は4万を超えている、との事だったな」


「はっ!」


今この陣地に漂うのは不安の入り交じる緊張感だ


「こちらの方が数は少ないが、魔道士部隊の数はこちらがはるかに上だ、一方的にやられる事は無い」


兵士の不安を察したのか、将軍は言った


事実サウセスは魔法使いが豊富に産まれる土地で、魔力が多い者もかなりいる

大規模魔法を使用できる者は限られるが、その、大規模魔法で戦力差を埋めるつもりなのだ



「それよりも明日の朝になれば戦争が始まる。今のうちにしっかりと心の準備をしておくよう全員に言っておけ」


と、そこまで話したところで慌てた一人の兵士が入ってくるなり叫んだ


「た、大変です!森が、大地が!」


その慌てぶりに何かが起きたことを察した将軍は急いでテントの外へと出てゆく


そしてその光景を見て、呟いた



「なんだこれは…なぜ、こんなに世界が輝いている」



それは目の前の自然、全てが緑に輝いていた

ザワザワと騒ぐ兵士達に落ち着けと注意することすら忘れて、その場にいる全員がその光景に見とれていた





ノーチェス王国軍陣営



光り輝く大地に、こちら側の陣営も同じように全ての人間が呆気にとられていた


「バカな……こんな、これほどの祝福が…」


一目でそれが祝福だと看破したのは


ノーチェス王国軍筆頭魔道士のマトラだ


マトラは数少ないノーチェス軍の魔法使いだ

だがしかし四元素の魔法全てに適正があり使いこなす、さらには彼女は僅かながら精霊を見ることが出た


それ故に、その光景が何なのか理解するのは早かった


芳醇な緑の匂いが立ち込めて、やわらかな空気が立ち上る


そして小さな大地の精霊達が歌い、舞っている


「なんて、大きな力…」


意図せずマトラの両目から涙があふれ出てくる


こんな事、おそらくサウセスに居る精霊使い達にも無理だろうと考える


これが出来るのであれば此度の戦争など起きようもないからだ




+-----------+




結論から言うと、宣戦布告は取り下げられた


それが大地の精霊による大規模な祝福だと分かったからだ


サウセスにいる精霊使いが大地の大精霊からのメッセージを受け取って居て、それをノーチェス陣営にも伝えた事で此度の戦争は戦う前に終わった事となる




そしてそのメッセージが、問題であった





「我らが盟友アリエッタとその友マリアの願いにより大地に豊作の祝福を届ける」




そう大地の精霊達から伝えられたからだ




その日、アリエッタのおとぎ話が一つ増えた




精霊の言葉というのは滅多に聞けるものでは無いが、誰しも一度は精霊を見たり、話した事があるものだ


だからこれは真実、となり

豊作となるなら無駄な戦争は避けようとなったのだ


当然、宣戦布告したノーチェスはいくらかの賠償をする必要があったが、今回は無しという事で決着をする


これはシルバ公爵が 賠償を求めないほうがいいと進言した為だ


貸ひとつ、その方が良いと考えた


また、ノーチェスの王が謝罪に来る、それだけで許そうとなったのは平和な世のせいもあったかもしれない









南の森からアエリア達は屋敷に帰って来ていた


その朝はのんびりとしており、使用人達も各々の仕事をしている


アエリアとマリアはいつもの庭で紅茶を飲んでいた


メイドのメアリが用意した茶菓子と共にアエリアとマリアは向かい合って座っているが


マリアの表情は優れない



「えぇぇ…何で私の名前が…」


昨夜の精霊が発信したメッセージ、そこに何故かマリアの名前


それをマリアも聞いていたのだ



「それはあの場に居たからだろう」


「アエリア様のお名前はありませんでしたね…その代わりアリエッタってなっていましたが」


「私は名前を隠してくれと言っていたからな、気を聞かせてくれたのだろう。それにいいではないか、マリアという名前など他にも居るだろう?」


その言葉は嘘である


まさか精霊が名前を言うとは思ってもみなかった

エズラに会ったらすこしばかりキツいお仕置が必要だなと思う


まあアエリアの名前が出なかったのは良い

私がアリエッタの生まれ変わりだとバレたかもしれないと思ったが、マリアの様子を見る限りは大丈夫だろうとタカをくくる


「いいかマリア、この事は秘密だぞ?バラしたら…」


「バラしたら?」


「殺す」


軽く殺気を込めて言ったらマリアは青い顔をして震えた


「冗談だよ。たいして隠したい訳でもないが、言いふらしたくもないだけだよ。そう言えばマリア、祖先にアシュトーと言う名の者は居るか?」


それに、ふぅと胸を撫で下ろすマリア

冗談であってほしいと心から思った


そこで、アエリアからの質問を考える

しかしその答えはない




「アシュトーですか?いえ、聞いたことは無いですね。父上ならば何かご存知かもしれないですが」


「そうか、それならば良い、気にしないでくれ。メアリ、お茶をもう一杯貰えるか?」


「はい、アエリア様。と言いますか、あの精霊のお言葉ってアエリア様とマリア様の事だったんですか?」


「まあ…実はな」


そうなんだよと言うアエリアに

なあんだと笑うメアリ、マリアは関心したように思わず聞いてしまう


「メアリはすぐ信じるんだな」


「はい!だって色々ありましたもの、信じますよ」


メアリはアエリアに付いているメイドだ

それなりの信頼関係ではあったものの、あの件以降は信仰に近い程に尊敬していたりする



「それにしても大変な一日でした、アエリア様について行っただけなのにまさか伝説にあるエルフに会うなんて思っても見ませんでしたよ」


「いいなあ、マリア様……私もエルフに会ってみたかったです」


「メアリはエルフが好きなのかい?」


「ええ、絵本でしか知りませんが幼い頃は憧れてましたよ。とても美しいと書いてありますし」


「あー、確かに美しくはあったかなあ」



なんて呑気な話をしているが、今はまだノーチェスとサウセスは話し合いを続けている


そして、アリエッタとマリアを探し出すと言う結論に至るまではさして時間は掛からなかった





これから2週間後、アエリアとマリアは王宮に呼ばれる事となる

それは祝福とは関係の無い事で、マリアが呼ばれるのだが、そこで事件は起こるのだ





アエリアは祝福の翌日より、畑を耕していた

それは祝福が掛かっている大地で作物の育成は失敗することが無いからだ


それにアエリアは前世の折は戦うことばかりでやりたいと思ったことは何一つ出来なかったのも大きい


まあ公爵令嬢でも本来は畑仕事など周りが止めるだろうが、アエリアは嫌われ者でいないものとされた人間であるし、今ここに居るのは気の知れた仲間のような使用人しかいない


本人の意志のまま、のんびりと暮らしているのだから





マリアはアエリアに付いて回って手伝いをしている


朝起きたら畑へ、そのまま狩りに出て野生動物を狩る


昼食後は2時間ほど剣の指導をうけてから、庭の手入れへ


余程令嬢とかけ離れたその生活に疑問をもたないわけではないが、アエリア様だからと納得している


実の所マリアはこの生活を気に入っていた


実家に居てはまずできない経験が出来ているのは彼女の心を軽くした


剣以外を握り振るうは鍬で、畑を耕す

サクサクと土を掘り返して、土の香りが鼻腔をくすぐるのは嫌いじゃないと気づいた


狩では気配を消し、逆に獲物の気配を探す

主に武器は弓である。トドメ用の剣はいつもの剣ではなく、短剣を背中越しに背負う

精神が研ぎ澄まされていくのを感じた



それにアエリアからの剣の指導は例え師匠からでも受けれないレベルの物であることからその充実感は計り知れないものである




そんなまったりとした日常が暫く続いていたある日


ついに、マリアに呼び出しが来たのだ

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