第13話

「セヴンスの一人のアナタが何故?」

「セヴンス? これは懐かしい名が出てきた。不死の近衛兵など嘘だったな。キムラもクドウも死んだぜ。まあ、兵器相手なら致し方ないがな。青は藍より出でて藍よりも青し。本来の意味とは少し違うが似たような理由が裏切りの理由だよ。不老不死になるには皇女様の情報が必要だから協力してほしい。ここいらで不老不死にならんとおちおち寝てもいられねぇ。なんせ二人も死んだんだからな。自分が仕込んだ兵器に殺されたら笑うに笑えんだろ? 説明は済んだ。それじゃ、協力してくれんだろ?」

「ワタクシたちは」

「あれを見ろ」


 彼が見る方向に自然と視線が向かう。静かに兵士が立っており前に喚き散らかす人たちが膝を着いている。彼らの胸には階級章がつけられているのが共通していた。


 ガトウと名乗った男は顔を元に指を二つ立てた。すると、遠くから叫び声が聞こえ並んでいた兵士の前の人が二人消えていた。


「酷いと思うか? 心配するなみんなやってる。大胆にやらないだけで誰でも足元の虫は踏み潰しているだろう? 常識の中だったらなんでも許される。それが世の中だ。自身が特別だと思うのも普通だと思うのもた大して変わらん。常識だと都合よく自己解釈しているに過ぎないからな。考えてしまった時点でそいつの本質はどす黒いものさ」


 ガトウは顎に手を当てた。


「感謝はしているんだぜ。長い間一緒に国を作ってきた仲だ。大抵の横暴にも目は瞑ってきたつもりだよ。けどな、それは死なないのが前提だ。いつの間にオレたちが弱くなってんだよ。不老不死が完成する前にどんどん死んでるじゃねぇか? 王宮地下の紋章陣の文字は読めたのか?」

「…………」

「回答なし」


 指を三本あげると三人が落下した。


「始まりの歴史以前に魔法という力が存在していた。別名奇跡とも呼ばれ時間を操る力であり、魔法を扱うには魔法陣という紋章陣と魔法使いが必要だとされているのが、国家の願望だ。何百年かけて探っても不老不死の方法は掴めないんだろう? ナンノ様に力を借りたいところだがそうはいかない。だから、可能性のあるほうにかけるのさ。未完成の不老不死の禁術を教えてくれるのが協力だ。皇女様なら知ってるだろ? 知ってなきゃおかしいだろ?」

「…………」

「ナンノ様が遭いにくるらしいしな。いま一番危険なのはアスカ様のいる場所さ。戦争が始まる前にオレはずらかりたいだけだ、邪魔は一切しない。協力もしないがな。御方は知らせてくれた。いまならまだ間に合うと」

「御方?」

「オレたちのトップだよ。御方の情報があったからここで待ち伏せできたのさ。おっと勘違いするなよ。反乱分子だからって国家を転覆させるとかの思想はオレにはないぜ。限定的な理由は思想がないのがオレたちのトップの考えでもある。つまりは交渉などが通じないという意味でもあるがな。国家転覆を狙うヤツもいるかもしれねぇ。知らんけど」


 彼はさりげなく国家に帰属しないと言明していた。


「何度も言って執拗だが感謝はしてんだ。だから、やり残していた仕事は終わらせておく。フュは人の行き交いが滞らない街。ゆえに会合にもってこいの街ともいえる。あそこに並んでいる連中は各所からある目的のために集まった人間たちだ。裏賭博さ。


 地下に闘技場がある。ダンジョンに繋がっていて魔物を運搬し金に困った人間と死闘させるって流れさ。アイツらはそれを仕切ってた連中。魔物が日中に出没するって噂を調べたらこのありさまよ。どこから大量に魔物が漏れてもおかしくないわな。


 協力の人質だと思ってわけじゃないだろ? ついでに処刑していただけ。さて、協力してくれるのか? してくれないか。だったら、少し弱ってもらおうか。進行する細胞よ、敵を膨張させろ」


 周囲を眺めた。あそこが一番危険だ。アラヤの近くには完全な遺体があった。鞄からトウマのナイフを取り出して慣れない手つきで遺体に向けて投擲した。使用者を嫌ってか真っ直ぐには向かわず一旦地面に転がって宙を舞うと重力に倣ってすとんと落下して遺体にめり込んだ。


「下手くそ! どこ投げてんだ!」


 背後からアダチからの怒声が飛んできた。それはそうだと納得する。なんせもう少し右に外れていたらアラヤに刺さっていたかもしれないからだ。結果的に遺体へナイフは刺さったのだけれど、慣れない物を扱うものじゃない。


「何これ?」


 小さいアラヤの声が耳朶に触れたのはそれだけ大きな声を出していたのだろう。アダチは反対に冷静な性格を持っている彼女が驚嘆した表情でこっちを見て問いかけているようだ。


 何って?


 よーく彼女を眺めて視線を追うと投擲した武器を見ているようだ。武器のあった遺体の場所はぽっかり穴が空いて肉に刺さっておらず地面に転がっていた。


 え?

「この、ナイフ。遺体を食べた」

 ええ!

「ううん。正しくは感知した遺体を切り刻みにした。これって一号の地雷罠に似てない?」

「え、旅人さん?」

「ちょっと、待て。よく旅人を見ろ。一番ビビってるぞ」


 俺はがたがた震えていた。膝ががっくんがっくんである。なんてものを渡してくれたんですか? なんてものを作ったんですか? なんで俺は切り刻まれなかったんですか? 罠を感知する仕組みなんてものを理解したところで納得はできないのだろうけど、自動車大丈夫ですか? 衣類は大丈夫ですか? トウマは大丈夫な人なんですか? いや、大丈夫な人は一人もいませんでした。早く逃げなきゃ。


「…………」


 頭の中の考えが右往左往している中、ガトウは声を出した。


「皇女様、あんちゃんは何者だ?」

「旅人さんじゃなく、いまはあの武器をどうするかを考えなければいけないでしょう。あれ一本あるだけでここに人は近づけさせられませんよ」

「一号の武器の話はいまはいい。それよりもあんちゃんだよ」


 彼はいまだに震えている俺を見据えて云った。


「二度目。偶然じゃないんだな。対処されなければ今度は確実に瀕死までにはするつもりの威力だった」

「…………」

「あんちゃん。天才か? 腐敗臭が危険だとよく気づいたな」

 はい? 腐敗臭?

「生物は死ぬと腐敗臭が溜まる。オレはそれを利用する。生物ならなんでもいいが特に武器として扱うには内部に無機物があればなおよし。腐敗を加速させ膨張させ破裂させる。暗殺に最適。オレがいまぺらぺらと魔術の話をしてんのはタネがバレたのを逆に利用して警戒してもらうためさ。周囲は死体だらけだろ?」

 何もバレてませんでしたよ?

「寡黙を貫くか。行動が読めん。どこまでが演技なのか。おいおい、あんちゃん。そんな体で何をしようとしてんだ? 話を聴いてなかったのかよ。それともオレの魔術が弱いとでも思ってたのかよ。これでも凄い七人の一人なんだぜ?」

 いや、逃げようと思いまして。

「人を救うふりをするのも大概にしとけよ。無理すんな」

 いや、逃げようとしてまして。

「逃げるなら。街の方角じゃなく反対側だ」

「「「…………」」」

「心配するな無関係な街の住人に手を出す理由はオレにねぇよ」


 がくり。


 あれ? 空が横になってる。


 膝が折れてそのまま横倒しになったらしい。体が動かない。


「印せ数詞、敵を下せ。おいおい、マジかよ。子供ならまだしもレベル0の成人なんて実在してんのかよ。それも王都に近いんだぜ。だが、まあ、納得だ。あんちゃんの行動は常識じゃねぇんだな。それに演技でもねぇ。あんちゃん、すまねぇ。ここで死んでもらといていいか。間違いなく、あんちゃんはオレの障害になる」


 うっすらと視界が霞んでいく。ホクトに助けを呼んだほうが良かったのだろうか。止めておこう。セイホのように彼女も眠らないタイプだから俺がそばにいないチャンスは貴重だ。自分が思い通りに体を動かせていたのが不思議だ。歩いて寝て起きて人体はいつも魔法と呼ばれる奇跡のように生きて滑らかに時間に逆らっていたのだろう。


 あらら、ちょっと修行して強くなったと勘違いしたようだ。誰かの会話を子守唄にとりあえず眠ってしまおう。眠ることしか体が言うことを聴いてくれなさそうだ。


「仕事とはいえど国民を恐怖に染めるのはいけません」

「はは、なんだ。閣下。そこにいたのかよ」

「ガトウ、残念です。細き雷よ、敵を渡れ」


 ああ、人は争えるだけでこんなにも美しいのだ。

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