第10章

第14話

 目が覚めたと思うのはいつだって起きたあとだ。


 どこかの部屋にいる。橙色のランプの光が壁を温かく塗っていて、部屋の隅は影が黒く染めている。体を起こすと視界が広がった。俺はどうやらベッドに寝ていたようだ。扉があっても窓がない。夜か昼なのか判別する方法が見当たらない。隣にテーブルがあってそこには水差しとコップがある。その奥に三つ艶のある革の椅子が並んでいた。周囲の物がどうやら自分とはかけ離れた位にあるのがよく解っただけでも収穫なのかもしれない。


 少し頭痛がある。思い出せるのはどこからだろう。栄養を補給したのはいつだったか。最後に会った人は誰だったか? みんなは何をしているのだろう? 元気にしているのかな? ん? あれ? みんなって誰を指してる?


 がちゃり。


 音が鳴って扉が動いた。こちらに向けてゆっくりと開いていく。開いたそこにいたのは。


 ――おはようございます。旦那様』

 あ、おは。

「やっと起きたか旅人。ちょっと待ってな二人を呼んでくる」

 ん?


 目頭を押さえて再び扉を見るとそこには誰もいない。開け放たれた扉があるだけで人の気配はなかった。色々と不味いらしい。頭を打ったのが原因で幻覚を視認できるようになったと素人が診断する。ぺたぺたと体を触って動かして痛みも疲労感もない。健康状態は頭以外すこぶるよいはずだ。ベッドから下りて散歩でもしてみようそうすれば幻聴すら聞こえなくなるだろう。いや、ちょっと待って。どたどたと足音が聞こえてきた。数人の足音が重なる騒音がやってくる。どこへ? ここに? 


「た、旅人さん。起きられましたか!」


 第一声と共に飛び込んできたのは胸の谷間が恐ろしく強調された衣類に身を包んだ三人の女性だった。


 何これ?


「アラヤの治療は適格ですね」

「…………」

「声が小さい。後遺症はなさそうだぞ」

「助かって良かった」


 良かったよかったと俺の快復を喜んでくれる人がいる。どうやら、一緒にいた彼女たちが助けてくれたようなので頭を下げた。だけれど、どう思い返しても過去あった姿と照らし合せられない姿だ。


 別人か?


 別人だったら誰だろう? 誰だろうと考える前に衣装について考えた方が利口そうだ。三人は会話をしながら並べられた革の椅子に腰掛けた。


「ガトウさんに逃げられてしまいましたわ」

「手傷は負わせたからもしかしたら死んでるかもだろ」

「人を護りながらあのレベルと戦って無事で良かったと思う」

「部下の方々は驚いてしまいたね」

「嘘を吐いていたヤツもいたかもな」

「いるよ」

「そうですね。信用できる人も沢山います」

「仕事に関しては確りしてたな。魔物は殲滅、地下の通路も破壊」

「口だけの男じゃなかった」

「改心してくれないでしょうかね?」

「なんでそんな発想になるんだよ」

「人ってそういうものだから」

「そういえば聞きました。助けた中に子供がいたでしょ? 将来ワタクシのようになりたいと云っていました」

「いや、お姉ちゃんたちと云ってたろ」

「そうそう」

「大魔導士を広めてくれないでしょうか」

「「ないない」」

「あ、旅人さん。ごめんなさい。きちんと起きられましたか?」


 アビルは変わらない笑みで声を出した

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