第16話

千鶴子の顔色は白い。ダンの様に真っ赤に 変わっていない。だが、形相が凄い!!  ダンは満身の力を込めて,襲いかかる千鶴子を壁に抑え付けている。それを千鶴子は必死で振払おうとして、二人は激しくもみ合っていた。                 だがやっと勝負は着いた。何とかダンが  千鶴子を完全に壁に押し付けている。   「千鶴子。もう止めろ。もう何かするな?」千鶴子は悔しそうな顔をしてダンを無言で 睨み付けている。            「じゃあ離すぞ?いいか、ドリー達に何か するな?」               ダンは何度もそう念を押してから放した。 千鶴子はダンから憤然と離れたが、まだ部屋にいた。                「ダン、大丈夫だったの?!」      ドリーが駆け寄る。           「あぁ、平気だ。」            アンジェリンは何も言わず、千鶴子から目を離さなかった。             千鶴子はアンジェリンやダン、ドリーを交互に睨み付けながらバスルームのドアの前に 立っていた。              「おい、出ようぜ。」          ダンが言った。             「ドリー、アンジェリン、外に出よう。」 「あぁ、そうだね!」          ドリーが同意した。           「アンジェリン、早く!!おもてに行こう。」                 アンジェリンに振り返ると声をかけた。  ドリーはダンに付いてドアの方ヘ歩き出した。                  アンジェリンも行こうとしたが、いきなり 千鶴子が叫んだ。            「アンジェリンは行かないで?!」    全員が千鶴子を見た。         「嫌!!アンジェリンはここにいて?」  「何してるの、アンジェリン?!早くおいで!!」                 「速く来い、アンジェリン!」      ダンも言った。             「千鶴子の言う事なんか聞いちゃ駄目!!」アンジェリンが数歩歩くと千鶴子が又大声を出した。                「アンジェリン!!アンジェリンはドリーに何をされたか忘れたの?!ねー、もう忘れちゃったの?!」             「エッ?!」              アンジェリンは思わず千鶴子の言葉に反応した。                  「ほら、日本に手紙を書いたよね?お母さんに、アンジェリンの事を色々と書いて手紙を送ったよね?!あんな事をされたんだよ!?!あんな事、普通はしないよ?!!」アンジェリンはその事を思い出すと腹が  立ってきた。おかげで母親から長い手紙が 来て、こっぴどくダラダラと注意や脅かしが書いてあった。             そんな事ををして迷惑をかけているなら今 直ぐに行って連れ戻すだとか、アメリカの大学には絶対に行かせないからだとかを。  母親は怒ると昔からDVを振るい、罵詈雑言を言いまくる性質だったからだ。     だからアンジェリンはそれを聞くと無性に ドリーが憎らしくなった。それを察している様に、千鶴子は更に繰り返した。     「そんな酷い事をして!騙して無理に住所を聞き出して!親にああだこうだ言い付けて!普通そんな事までしないよ?!そんなの、 絶対にあり得ないよ?!」        確かにそうだ。             「アンジェリン、言ってたよね?ドリーが又何か言いつけたら大変だから、机を片付けているって!何してるのって、そんな机なんて整理してるから聞いたら。ドリーに住所を 知られちゃったから、しつこいから教えたら、手紙を出されちゃったからって。自分は絶対に教えないくせにって。だから、又やられたら恐いから、きちんと整理しておくんだって。ねー、ドリーはそうやって、人の弱みを握って何かやるんだよ?そんな事をやるんだよ?でも私は違う!私は只ヤキモチを焼いたからしたの。だけど本当はアンジェリンが好きなの!憧れてるの!だから、ドリーなんかとは違うの!!」           「そんな話、信用しないで!速くこっちに 来て?!アンジェリンは言ったよね、狐憑きだって?千鶴子には死んだ狐の霊が着いてる、化け物が着いてるって?あれ、本当だよ!!さっきのを見たでしょ?」     ドリーが言った。ダンも心配そうに見ている。                  だがアンジェリンはもうドリーが何を言っても聞けなかった。あんな、人の家族に手紙まで書いて!しかも何も大した内容でも何でもない事で。しかも嘘の理由を言って、人を 上手く騙して。             アンジェリンは行くのを止めた。此処は自分の部屋だ。外に出てどうするんだ?どうせ又戻って来なければいけないんだから。   アンジェリンの変化に気付いたドリーは仕方無く諦めてダンに言った。        「ダン、行こう。」            ダンも不安そうな顔をしながらアンジェリンを見たが頷いた。そしてドリーはドアを閉めた。                  二人が行ってしまうと千鶴子が嬉しそうに アンジェリンに近寄って来た。      「良かった〜、アンジェリン。行かなくて。」                 そしてアンジェリンのベッドに腰掛けた。「ねー、アンジェリンもこっちに座って? 早く?」                アンジェリンが横に座るとニコニコしながら顔を覗き込んだ。            「アンジェリン、いい?ドリーの言う事なんて聞かなくて良いの。アンジェリンは私の言う事だけを聞いていたら。」        アンジェリンは言われた内容に、思わず千鶴子の顔を見つめた。           「いい、アンジェリン?分かった?」   千鶴子の目がギラギラと光って、顔は野蛮で、獣の様だった。           アンジェリンは恐くなった。やはりそうだったのに…。今からでも出ようかな?ドリー達はまだそこら辺にいるだろう。      丸でアンジェリンの気持を読んだ様に、千鶴子は又繰り返した。           「分かった、アンジェリン?!」     アンジェリンは恐いから返事をした。   「分かった。」              千鶴子は嬉しそうに言った。       「そう、それで良いんだよ!アンジェリン、それで。」                そして自分の部屋に嬉しそうに戻った。  15分程するとドリーがダンと入って来た。二人は缶ジュースを手にしていた。    ドリーが言った。            「アンジェリン、ダンが言ってたけど、やっぱりダンも感じたって。」        「あれは、何か着いてるな。」      「ほらね?!私も凄くそう思うの。アンジェリンだって、自分が1番最初にそう言ったのに!なのにどうしちゃったの?!」    「さっきの千鶴子は、あれは女の力じゃなかったからな。俺と変わらない位の力だったよ。下手したら俺よりあったかもだ。だから俺も必死だったよ。あんな力を、あんな千鶴子なんかに出せる訳がないからな。あんな女に。」                  アンジェリンは二人が話すのを不安げに聞いていた。                「あれは何かの霊が取り付いてるんだ。人間なら、あんな体のあんな女に、あの力は出せない。」                「やっぱりアンジェリンが言う様に、狐なのかなぁ?」               「そうとも言えるかもな。何かの動物だろうな?」                 「だからね、アンジェリン。ダンとも相談 したんだけど、私、このドームを出ようかと思うの。」👹!                       

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