第17話

「出る?」               「うん、前から少し考えてたの。だって一人用のスペースはこんなに狭いし、しかも四人でバスルームを使うんだから!だけど千鶴子の事があってからは、余計にいたくないよ。もうあんな恐い女となんて、近くにいられないから!」               「俺もさっきあんな事があったんだから、 もうそうしろとしか言えないな。アンジェ リン、お前も出た方が良いぞ?」     「だからアンジェリン、一緒にどこか   アパートに住まない?一緒に借りようよ?」「私は、ドームの方が良いから。」    「何で?!」              「だってさ。」             「だって何なの?何で平気なの、あんな事があって?千鶴子なんかと隣で!それにアパートの方が広いし、もっと自由が利くよ?」「私は此処が自由じゃ無いなんて思ってないもの。大学のキャンパスの中に住んでる方が、外に住むより良いから。」      「どこがいいの?!」          「歩いてクラスに通えるじゃん、近いから。カフェテリアだって近いし、知っでいる  大学生や働いてる人達だっているし。別に 嫌じゃないもの。外へ行けばそう言うのが 全部無くなるんだから。」        「だけど千鶴子はどうするの?」     「アンジェリン、止めとけ。お前、危ないぞ。あんな奴が隣じゃあ。」       「大丈夫。」              「大丈夫じゃないよ!さっきだってダンが 来なきゃどうなっていたか分からないんだよ?アンジェリンだって何かされたかもしれないんだから。大体あの後一体どうしたの?!」                「ベッドに座って話しただけ。」     「何を?」              「別に…、大した事じゃないよ。」    「ねー、アンジェリン!考え直しなよ?」「ごめん、だけど私は此処にいる。」   「アンジェリンったらぁ?!」      「知らないぞ、何かあっても。」      ドリーはそれから少しして、本当に出て行ってしまった。同じクラスの和之と言う18歳の青年と同棲したのだ。         その和之の話をしておこう。       和之は東京出身だった。アンジェリンは  東京での説明会に、彼が両親と来ているのを見た。そして席に付いた時には偶然隣の席で、彼は自分に話しかけて来て、とても明るくて感じ良い青年だった。両親もそうだった。                  彼も高校を卒業したばかりで、彼は私立の 男子校を出た。性格も良かったし、アン  ジェリンにも優しかった。話好きで、あちらへ行ったら楽しくやろう、と何度も言って いた。そしてCクラスに入れられた。   彼は只、お坊っちゃんだったのだ。そして 高校を出たばかりだからまだ世間知らずだった。これがとんでもない結果になり、彼には悲劇が訪れる。そして別人と化してしまう!物凄く静かで暗い青年になってしまう。  そしてそうして変貌した後に、同じクラスのドリーと付き合う事になる。彼女以外には 殆どもう誰とも快活に話す事は、まず無かったのではないだろうか?         彼はアメリカに着いてからは寮の部屋を当てがわれた。そして着いてからまもなくだ。 彼は、大阪出身の10代の3人組の男に目を 付けられる。アンジェリンを敵対視した、 同じ連中だ。              彼等はモーテルから来て、和之のは部屋に 入り込んだ。和之のルームメイトを上手く 追い払って中から鍵をかけた。そして生意気だとかの文句を言い、土下座を強制的にに させた。そうしない限り絶対にそこから出さないと、どんなに和之が逃げようとしたり騒いだりしても出さなかった。泣きながら頼んでも出さなかった。そうして2時間位居座られて、出してもらえず、仕方無く言う事を 聞いた。                何故か皆、和之がそんな事をされていたなんてその時は分からなかった。何せ密室なのだから。                 これが理由で、今迄はそうした恐ろしい虐めにあった事がない彼の性格は歪んでしまった。                  アンジェリンがこれを知ったのは、後から 彼等が、自分達が和之をとことん虐めてやったと他の寮の日本人に笑いながら自慢していたのだ。寮の部屋の前の通路で、大声で話していたのが聞こえたからだ。       居達さんは恐らくこの事を知らないだろう。和之はそれを言わなかっただろうから。他の生徒達も関わりたくないから話さなかっただろうし。                勿論言えば和之はもっと虐められただろう。何しろ彼等は何も自分達に関係の無い、女のアンジェリンまでもを目の敵にしたのだから。                  だが居達さんは後に、彼等3人の事をチンピラやヤクザと何も変わらないと言った。確かに見た目もそんな風だった。       彼等はAクラスだった。18歳が二人、もう一人が19歳で、3人共日本ではブルーカラーの仕事をしていた。           そしてコイツラの話も他のエピソードで話そう。アンジェリンに散々煮え湯を飲ませて、結果、自分達馬鹿共はどうなったかを。  その和之をドリーは最初は嫌だったらしいが、大人しくて暗くなってしまった彼に同情したり、又言う事を聞き安いと思って自分から近付いたそうだ。           そして同棲をしてからはいつも一緒に登下校した。和之はいつも何も口を聞かず、ドリーにくっついていた。           アンジェリンがたまに話しかけても絶対に 口を聞かないで無視した。3人のチンピラもどきに、自分達が嫌いな彼女とは口を聞いたら駄目だと脅かされていた様だ。     和之はアメリカに来ないで、日本国内でどこかの学校ヘ入ればあのままの明るい人格で いられたと思う。            留学とは、人に寄ってはとんでもない事に なる?!他にもそう思えた人間はいる…。 ドリーはKBSを卒業するまで、和之とはおしどり夫婦みたいにいつも一緒だった。   そして千鶴子とアンジェリンは隣同士で、 互いに一人部屋になった。        だが、居達さんが千鶴子を追放する策はどうなったのか?諦めたのか?そうではない…。それはまだもう少し先だ。     

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