第14話
千鶴子はそれからはアンジェリンとドリーの部屋ヘ頻繁に入って来ていた。 アンジェリンは、クラスに出る時にはバスルームのドアの鍵をかけて、隣室から通って 勝手に入れない様にしていた。 だがドリーが先に戻り、トイレを使用してから鍵をかけずに他の生徒の部屋ヘ行ってしまい、アンジェリンがまだ戻っていない時には、千鶴子は勝手に入って来た。 ドリーも、やはり何か悪霊が着いていると 信じたくせに、バスルームへの鍵をかけるのは習慣でなのか、忘れてしなかった。 だからか、たまにアンジェリンの物が無くなっていた。大した物ではないから騒がなかったが、無くなっていたり壊れていたりだとかした。 この頃には既に、アンジェリンはこの大学の生徒達と挨拶を交わしたりして顔見知りに なっていた。中には一緒に食事をしたり部屋へ遊びに行ったり、一緒に映画館へ行ったりする仲間もできた。 大学教授や食堂の従業員、掃除婦、本屋の 従業員や大学内にある郵便局の人間達にも そうした人間達がいた。 だから部屋にいない事も多々ある様になると、千鶴子はそれを良い事に、彼女の机や 引き出しを調べて、何かの券だとか一寸した物を盗んだり、破かれていたりしていたのだ。 無くなった物は本当の貴重品ではなかったし、又破いた紙を、千鶴子は下らない理由を付けてごまかしていた。自分の物が紛れ込んでいるかと思って、それを破いただとかだ。 だからアンジェリンは居達さんには言わなかった。彼女は、告げ口をしたらいけないと 言った教育を、家で祖母に叩き込まれていた。何でも全て自分に振りかかった事柄は自分で解決をする、できないならそれは自分の責任だから仕方が無い。ならつべこべ言わずに我慢をする。そうした自分達へのご都合主義的な考えを押し付けられて、この若い時期にはそうして洗脳されていたのだ。 だがこうした事が何度かあり、アンジェリンも流石に腹が立ち、ドリーにそれらに付いて聞いたりした事からドリーはそれを知る事になった。それである時ドリーは罠を仕掛けた。 千鶴子がどんな人間か、アンジェリンが言った様に何か化け物が憑依しているのを証明 するからとアンジェリンに言って。 そして彼女はわざと千鶴子に言った。アン ジェリンの机には、何か大切な資料が置いてあると。大学生に貸してもらった何かだと。 明日それは返す事になっているみたいだから、絶対にアンジェリンの机の上を触っては駄目だと。 後からドリーはアンジェリンに嬉しそうに 報告した。千鶴子は分かったと言ったが、必ず触る、必ずその紙に何かをすると。そしてそうすれば、千鶴子が完全に悪意がある、 本当に化け物なのだと。 その日、クラスが終わって戻って来てから、言われた様にアンジェリンはドリーと共に 外ヘ出た。 ドミトリーから直ぐそばにあるゲームルームヘ行って、少ししてから戻って来た。 ゲームルームにはジュースやコーヒーの自動販売機があり、一寸したゲームがあった。 ビリヤードの台も一台あった。後は、ソファと椅子とコーヒーテーブルだ。 しばらくして戻ると机の上のその用紙は消えていた。 「ほらね、やっぱり!!」 ドリーはそう小声で言った。 何だかバスルームで声がする。アンジェリンは行かなかったが、ドリーはそっと開いて いるドアから覗きに行った。 そして直ぐに戻って来た。 「ア、アンジェリン?!早く見に行って!」小声だが、興奮している。 「千鶴子、何してたの?」 アンジェリンも小声だ。 「早く、いいから?!」 アンジェリンも足音を忍ばせてそっとバスルームの通路へ行き、中を覗いた。 そこには、便器の中に紙を小さくビリビリに破きながら、下を向いて中を見ながら一人で嬉しそうにゲラゲラと笑っている千鶴子の姿があった。 便器に落ちる紙切れを見ているその顔はハッキリ見えなくても、物凄い悪意が感じ取れた。正に化け物や鬼か何かの様な恐い顔を して…。 アンジェリンは急いで戻って来た。顔は引きつっている。 ドリーの顔を見た。 「ねー、アンジェリン?アンジェリンが言った様に、本当に悪霊が着いているよね?!」アンジェリンは返事をしなかった。 すると千鶴子が入って来た。アンジェリン達は緊張して彼女を見た。 「あれー、二人共帰ってたのー?」 「千鶴子、あんた!」 ドリーが叫んだ。 「あんた、トイレで何してたの?」 「エッ?」 「見たんだよ、私。あんたがあの紙を破いているのを。」 「知らないよ。何の事?!」 「ねー、アンジェリンも見たよね?」 ドリーはアンジェリンの方を向いた。 千鶴子もアンジェリンを見る。 アンジェリンは口を開いた。 「千鶴子、何であんな事をしたの?!」 千鶴子は黙って考えている、どうしようかと。
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