*第4話 私が生きる世界

その国で生きる人々はその世界を

“イ・デアル・アー”と呼んだ。


古代の言葉で“空・大地・海”と言う意味だ。

彼らはそこが惑星であり、

球体である事をまだ知らなかった。


現段階で認識されている大陸は三つ。


最大の面積を持つがその殆どが未踏の地

エギ・キキル・デアル北の氷の大地”。


南北に長く湾曲した

ファ・ジンムーラ・デアル精霊と黄金の大地“。


歪ではあるが円形に近い

ポーラ・タエタト・デアル太陽と砂の大地“。


実際にはもう一つ大陸が有り、

四大陸の星なのだが知られてはいない。


この世界には“魔法”がある。

精霊と契約し精霊言語を用いて発動する。


かつて高橋明であった少女は名を

エルサーシア・ダモン・ログアードと言う。


辺境伯家の第三子であり長女となる。


北方のラーアギル山脈の麓一帯に暮らす

戦闘民族ダモン。

敵にすると手強い軍事力を保持している。


王家とは血縁関係もあり良好と言える状態だが、

中央の宮廷貴族達からはうとんじられている。


さて、

数奇な巡りあわせの糸に導かれた少女は、

この世界でどのような生を紡ぐのであろうか。


***


なんやかんやで、もうすぐ10歳。

すっかり引き籠りですわよ!


彼女の居ない人生が、

こんなに心細いとは・・・


部屋から出ると心が不安で一杯になってしまいますの。

屋敷の外へは滅多に行きませんわ。

年に一度、王都へ行く時くらいですわね。

国王陛下との謁見えっけんがありますの。

新年の挨拶ですのよ。

我がダモン家は高位貴族ですの。


その折りは、お母様のご実家に泊めて頂いて、

親族の顔合わせを致しますの。

同い年の従妹が居ますのよ。

三姉妹の末っ子。

タチアーナって言いますの。

チャーミィと呼んでいますのよ。


長女はアルマーナ、二女はジュリアンヌですの。

上の二人はとても意地悪で、行くと必ず嫌な思いをさせられますわ。

まぁ、子供のする事ですから大したものではありませんけれどね。


私が泣けば気が済むようですから、そうして差し上げますの。

でないとしつこく絡んで来ますのよね。

大人の対応ですわ。


私にはお兄様が二人居ますの。

6歳上の双子ですのよ。

長男のオルエルトお兄様と次男のフリスタスお兄様。

お二人とも軍の研修生として王都にいらっしゃいますの。

今日はお兄様たちへのプレゼントに毛糸のマフラーを編んでいますのよ。


「姫様、何をなされておいでなのですか?」

侍女のマルガリテが不思議そうに、

やや片眉を上げて尋ねてきましたの。


「アヤトリよ。はい!トーキョータワー!」

赤い毛糸と言えばこれですわよね!

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330656213662851


「トーキョー?で御座いますか?」

あ・・・

「いいえ何でも無いわ御免なさい」


マルガリテの顔に少し怯えが浮かんでいたので、

そそくさと編み物を再開しましたの。


またやってしまった・・・


気を抜くと時々前世との区別が曖昧になってしまいますの。

前にも色紙で鶴を折っている所を目撃されて、

気味悪がられましたのよ。


紙切れをいじくり廻して作った意味不明な物に

“ツル”と名付けて鳥だと主張する私は、

さぞかし不気味に思えた事でしょうね。


日本人の美学は通用しませんでしたわ。


考えてみれば折り紙の鶴って、どう見ても

鶴ではありませんわよね。

まだカルガモの方が近いですわ。

誰が最初に言い出したのかしら?

それとも昔はカルガモの事を鶴と呼んだのかしら?

だとしたら鶴はなんて呼んだの?


どーでも良いですわ~


時折見せる奇行が原因で私と使用人との間には

僅かな緊張感が生じていますの。

でも嫌われているのではありませんのよ。

大切な姫君に“狂の気”でもあれば

一大事であると懸念しているだけですわ。


お父様には報告が上がっている筈だけれど、

その事で何かを言われた覚えはありません。

家族からは一様に溺愛されていますのよ。


あぁ・・・

味噌汁が恋しい・・・

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