第2話 超能力者彼女の秘密

反射的に体を起こし周囲を見渡すと格闘技のような姿勢で次への動きを考える未咲

とまるで漫画のようにくの字になって白目をむいて倒れている友人がいた。


「未咲ストップだこいつは俺の友人だ!」


「やり方が素人臭かったから、どっちか悩んだんだけど、あんたに友人なんていない

と思ってつい」


警戒態勢を解き、やれやれといった感じで友人を見下ろした。


「素人臭いってゆうのは?」


「しばらくドアをノックしてて、面倒だから無視してたらドアの郵便を受け取る所から金具で鍵を開けたのよ」


古いアパートに住んでいるのだが鍵の仕組みがとても簡単でしかも構造的にそれなりの知識があれば簡単に開けれてしまうのだ。


「普通ドアノックした時点で友人だと思わない?」


「あんたに友達なんているわけないと思ったのよ」


「どんだけ俺を孤独だと思ってるんだお前は!」


「だって実際友達少なかったし」


「それなりにいるよ!」


未来には道徳といった科目はもうないのだろうか。

人の心の壁をまるで重機で壊して入ってくる感覚だ。


「あっそ、こいつどうするのよ」


「起きるの待つのがめんどうだし、こいつを部屋に戻して今日の事は無かった事にししよう」


もう夜も遅い、こんな時間に来るのだから何かあったのかもしれないが眠気でそれどころではない。


「同じアパートだからすぐだ、足のほう持ってくれ」


「なんで私がこんな事を・・・」


「お前がこいつを気絶させたからだろうが!」


渋々といった感じで足首をもち二人で運び始めた。

この姿を誰かに見られたら世界平和よりも自分の身が危ない。

その後は誰にも見られないように二人で彼の部屋に行き、友人をベットに放り投げそのまま寝た。





学校に行くと未咲は注目の的であった。

美しい見た目に目を引く金髪、すれ違う度に上がる歓声に好機の目。

平穏で暇な日常にはピッタリの話題でありすぐさま沢山の色んな人達が彼女を取り囲んだ。


「どこに住んでたの?」「どの部活入るの?」「帰り遊びに行こうよ」


など引っ切り無しに、会話が飛び交っている。

またそんな会話を無難に、楽しそうに、冗談を交えながら話す彼女の元には更に人が増えていく。

最初は名字が同じ事で多少人は来たが、兄弟だと説明すると適当に茶化して未咲

の方に向かって行った。


さて、これが彼女の建てた超能力者である琴音さんとまずは友達になる作成の第一歩なのだ、作戦は単純で普段なら人目が気になって話しかけずらいが、未咲に注目が集まっている今ならば話しかけ易いとゆう事だ。

琴音さんが転校生を取り巻く一人にならない事が条件なのだが、彼女はそのようなタイプではない。

テストの成績は常に一番で体育なども完璧にこなし、休み時間は常に本を読み

部活もの特に所属していない事からミステリアスな存在で周囲の目を引くのだが

話しかけてくる人には素っ気ない態度を取ることで有名だ。

今日もクラスの窓側の席でクラスので一人静かに本を読んでいるので近づき

少し緊張しながら、なるべく自然な笑顔で自然な会話を心掛けた。


「本日はお日柄もよく、暖かい一日になりそうですが何かご予定などはありますか?」


彼女は本に目を落としたまま、まるで興味なさそうに話す。


「勉強よ」


「やはり学生の本分は勉強ですもんね、今日は一緒にお弁当でもどうです?」


「遠慮しとくわ」


「そうですか残念です、ちなみに休日は何を?」


「勉強よ」


「そうですか・・・」


一昔前のゲームでももう少しNPCに会話のレパートリーがあったが、この子は勉強に全てのスペックを費やしてしまったのだろうか。


「あの~、良ければお友達になりませんか?」


ある程度来る答えを察して苦笑いで聞いてみる。


「結構です」


キーンコーンカーンコーン


着席のチャイムが鳴る、作戦は一時中断のようだ。


「ではまた・・・」


言い逃げするように話しながら自分の席へと向かう。

席順は五十音順の為、俺の前の席が未咲になったのだが席に着くと小さな怒鳴り声が飛んできた。


「あんた何よ今の会話は!」


「無難で、知性が漂っててよかっただろ」


自信満々にふんぞり返る。


「んなわけあるか!jkナンパしてる40代のキモいおっさんにしか見えなかったわよ!」


「それは言い過ぎだろ」


「言い過ぎでも何でもないわよ、次は私の指示通りにやりなさいよ!」


そのままプンプンと怒りながら教科書準備を始めてしまった。

てかやけに耳いいなこいつ。


昼休みが始まり彼女が教室を出たのを見計らって追いかける。


「本当にこんなんでいいのか?」


改めて授業中に彼女から来たメールを見返した。


「まずは軽く彼女に興味を持った理由から話しなさい、そしたら今度は自然な流れで好きなものとか、最近嬉しかった事とか話す事!一方的な趣味の話は厳禁ね

そしてそのままの流れで相手に話題を振る!

これで取り敢えずは話せるはずよ

下手に自分を飾ろうなんてしないで正直さを心掛けなさい」


何かもっとアプローチ的な事をしたいがここは経験豊富そうな彼女の指示に従った方がいいだろう。


琴音さんはいつもの中庭の真ん中の方ベンチに腰掛けた。

この学校は偏差値もそれなりに高く、それに比例するように校舎や敷地が大きく

隅々まで整備されている。

その学園でも中庭には特に力を入れていて、噴水や花などによって彩られている

のだが彼女は昼休みになると、いつもその真ん中のベンチを使う事からあそこは彼女の特等席とゆう事になり、他の人は一切あそこに座らないのだ。

普段ならそんな彼女の横に並んでベンチでご飯を食べるなど考える事もしないのだが今日は未咲のおかげでほとんど人がいないため実行可能なのである。

ベンチに座るのを確認し横に腰掛ける。


「隣いいかな?」


「好きにすれば」


彼女の視線はこちらへと向けられることなく、これから食べるのであろうサンドイッチに向けられたままだった。


アドバイスを思い出す。


(まずは何で話しかけようと思ったかだっけか、なるべく正直に)


「美人で何でも出来る琴音さんと前から友達になりたいと思ってたんだ」


「そう、でも無駄足だったわね私友達は作らないの」


くっ、ここで挫けたくなるが我慢だ!

このまま終わっては妹に何を言われるか分かったもんじゃないぞ。


「そっか、それより聞いてよ最近妹が出来たんだ」


「最近?」


「そう最近いきなりね」


やっと興味が出たようで視線を向けてきた。


「琴音さんって兄弟はいるの?」


「いるわ」


「お姉ちゃん?それとも弟?」


「お兄ちゃんよ」


「高神さんのお兄さんなら何でもできちゃいそうだ」


「そうね、お兄ちゃんは昔から何でも出来たわ全部」


「凄いね、俺なんて学校のテストだけで手一杯だ」


「ええ、凄いのよ、お兄ちゃんは一人で何でも出来るの」


懐かしむように笑みを浮かべている。

普段の氷のように冷たい表情を浮かべている姿からは想像出来なかった。


「凄いな、多分僕は新しく出来た妹に教えてあげられる事は何もないや」


「傍にいてくれるだけでいいのよ」


「そうゆう物なの?」


「ええ」


「また昼休みに来ていいかな?」


彼女は少し考え答えた。


「それくらいなら構わないわ」


それから数日間お昼ご飯を一緒に食べる仲になった。

ただそれもそれそろ限界で段々と未咲に集まる人だかりも消えつつあった。

俺と琴音さんが話していてあらぬ噂が立てられてしまって琴音さんに迷惑がかかるだろう。

そして今日の会話もまた自然と兄弟の話になった。


「私のお兄ちゃんは全部を完璧にこなしていて、みんなから天才と呼ばれていたわ」


「琴音さんと一緒だね」


さっきまで浮かべていた笑顔がスッと消える。


「違うわ、私はいつまで経っても追いつけないのよ」


「追いつけない?」


「そう、追いつけない」


少し間を開けてこぼれるように語る。


「頑張っても頑張って手を一生懸命伸ばすんだけどそれでも届かないの」


俯きながら徐々に言葉は小さくなっていく。


「お兄ちゃんはいつも全国テストは一位で私は下、ピアノのコンクールだって私は下

スポーツだって勝てた事なんてない」


「だったらさ、一緒にお兄ちゃんに追いつこうよ」


「でもお兄ちゃんは一人で何でも出来るの」


初めて聞いた感情的な声色。


「今日は帰って頂戴」


拒絶されてしまった。

彼女の目から涙がこぼれる。


「ごめん、傷つけるようなつもりは無かったんだ」


「いいから、ほっといて」


「分かった」


こうなってしまってはもう掛ける言葉もない。


この出来事を妹に報告すると安定の罵倒と蹴りが飛んできた。

もう一回彼女に謝りたいと伝えると何かスマホに入力ししばらく経つと彼女は商店街にいるから行って来いと言われた。


「どこにいるのかなー」


取り敢えずプラプラと商店街を歩いてみるが全く当てがない。

近くの本屋にでも入ってみようとしたところで琴音さんの悲鳴が聞こえる。

すぐに悲鳴の聞こえた方に足を動かした。

すると物凄い恐怖の形相をした琴音さんがこっちに向かって走って何から逃げて来ていた。


「今助ける!」


覚悟を決め追って来ている人物に目を向けるとただの子犬だった。

それもめちゃくちゃ可愛い。


「え?」


とても間抜けな声が出るのと彼女が飛び込んで来るのはほぼ同時だった。





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