第27話 人を責める時間ほど無意味な時間はない

部活動が終わり、俺は帰宅していた。


「·····加藤」

「何かしら?」

「俺の気のせいならいいんだけどさ、確か駅の方にいつも向かってないか?」


たまたま部活が終わった後に加藤とすれ違い、一緒に帰るながれになったのだが、加藤の帰る方向がいつもと違うような気がしていた。


「そうよ。駅に向かっているの」

「·····こっちは駅と反対だぞ」

「えっ!?」

「······いつも通ってる道と違うのはなんとなくわからないのか?」


部活中でわかってはいたことだが、加藤には少し抜けているところがある。マネージャーとして陸上部に入部したわけだが、色々とミスをこれまでにしてきている。失敗は誰しもにあるから誰も言わないが、何度も続くと先輩たちとの間で亀裂が入るかもしれない。


加藤の家はかなりの金持ちの家で、加藤は箱入り娘的な立ち位置にある。自分から何かをするという機会がなかなかなかったのかもしれない。それは俺にとっては辛いことのように感じるが、当の加藤からしたらそれが当たり前のこととして脳内に刻まれているのだろう。自分が何もしなくても周りがやってくれるだろうと。そう無意識に考えてしまうのだ。


加藤はたまに部活中、ぼーっとしているときもあるから少し俺としては心配だ。なにかあってからじゃ遅いし。


「りょ、良太もそしたら間違えているんじゃないの?」

「······俺は今は一人暮らしをしているからあってるよ」

「そ、そうなんだ······」


過去の俺のことを唯一知っている加藤はきっと気づいていることだろう。俺がなぜ家を出て一人暮らしをしているのかを。


「大変だったりしないのかしら?一人暮らしって自由なことが多いけど、大変って聞いたから」

「······昔と大して変わってないよ。俺は昔から一人でやってきてたからな。そのおかげで家事全般、苦がないからいいけどさ」


ただの自虐だ。加藤とは小学中学と同じだったが、関わりはいつしかなくなっていた。俺は小学生となってから家から追い出されて倉庫暮らしをしていたから、家事の面で困ったことはない。慣れは最強ってわけだ。


「その·····良太のおじいちゃんは元気なのかしら?」

「?じいちゃんは元気だぞ。たまに電話してるから」

「·······良太は実家に帰る予定とかあるの?」

「········」

「ごめんなさい、聞くべきではなかったわね」


加藤はそう言うと駅の方へと向かいだした。加藤が一体何をしたかったのかはわからないが、俺には最後の質問をするためにここまで俺と歩いていたのではないのかと思った。

これまで何もしてくれなかったのにとか、俺とは関わるなとか。そんなしょうもないことを加藤には言わない。立場が仮に反対になったとしたら、俺はきっとあのとき動けなかっただろうから。


「俺は誰に対しても責めたりはしない」


そんなことは時間の無駄だし、それをしている暇があるなら別のことをしたほうが有意義な時間を過ごせる。


「明日も早いし、早く帰って寝るか」


俺はそう言うと走って帰宅した。

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