第26話 人には苦手なものはあってもおかしくない

加藤とともに部室へと向かっている。梅雨入りしたからと言って部活はなくなることはない。グラウンドが使えなくとも体育館や校内の階段などを利用すれば十分活動できるし、大会も近づいてきているしな。


「よう、池」

「おっ、やっと来たんだね、良太。加藤さんも今日もがんばろう」

「ええ」


加藤は未だに池の存在に慣れていないようだ。まぁ、池はイケメンだから、女子からしたら少し眩しく映るのかね?これだから、イケメンは困る。モブである俺には照明は当てられず、池にばかり当てられるもんだから、いつまでもモブ脱却が叶いやしない。池は良いやつだからいいが、クソみたいな性格のイケメンに対しては抗議をしてやりたい。お前みたいなイケメンは認めない!ってな。


⚫それは、とどのつまりイケメンであると思っていることになるのだが、当の大橋は気づいていないようである


着替えを終えると俺と池、加藤(俺が着替えだしてからは部室の外にいた)は、現在、活動場所となっている一階の階段前に来ていた。


「よく集まってくれたね、部長の青春だ」


部長の青春先輩が簡単に挨拶をしている。活動開始前に連絡事項等があれば、ここで話がされ、その後、今日のトレーニングのメニューに話が移っていく。


「ねぇ、良太」

「ん?なんだ、加藤」

「最初のくだり、毎回やっているけれど、やる意味あるのかしら?」

「······ルーティンだよ、加藤。ルーティンは重要なんだ」


きっとそうに違いない。


青春先輩の話は進んでいき、やがて大会の話となった。


「もう少しで県大会出場をかけた予選会が行われることになる。みんながこれまで頑張ってきた成果を発揮する場であり、県大会を目指して頑張っている人にとっては大きな山場になる。我々陸上部は今年もリレーに出場することになっているから、リレーメンバーの選出もしていく。まだ誰が出るかは決まっていないけれど、もうそろそろ決めていかないと行けないから練習をさらに頑張るようにしていこう」


リレーか。俺は今まで個人競技しか出たことがなかったからな。少し興味はあるが、リレーは短距離走なんだよな。俺が得意だと思っているのは長距離だから、少し厳しい気がするな。


「·········リレーか」

「池、興味あるのか?」

「それはね。でも、選ばれるとは思えないな。先輩方にはまだ追いつけていないし、僕は短距離走は苦手だからね」

「そう言えばそうだったな。50メートル走でなかなか“斬新な記録”を出してたしな」

「良太、オブラートに包もうとしたんだろうけどその表現は何一つ包めてないよ。はみ出てるよ」


池は少し呆れたように俺にそう言った。



どうでもいい話かもしれないが、俺と池は別クラスではあるものの、体育が一緒になっている。二クラス合同でこの学校では体育が行われていて、俺が池の50メートル走について知っているのもそのためだ。

俺は1組なのに対し、池は2組で、2組の男どもからは結構人気がある。それも50メートル走での記録によるものだ。陸上部に所属していながら9秒台というなかなかな記録に男どもは池はイケメンであるが、葉山隼人のようになんでもそつなくこなす人間ではないことがわかり、親近感が湧いたのだ。

俺も池が短距離が苦手という話は聞いてはいたものの、苦手の基準がかなり高いのだろうと思っていた。が、あの走りを見て、ああ、たしかに池が言うことは本当だ。とすると、球技が苦手ということもきっと本当なのだろうと俺はこのとき思った。


⚫ 大橋が池面のことを信用するようになった瞬間である


誰にでも苦手なことはあるし、それを気にしていてはしょうがない。割り切って頑張るしかない。


俺は今日のトレーニングである“階段を20分間登って下がってを繰り返そうぜ!”に励んだ。トレーニング名は青春先輩によるもの。まぁ、なんとなく想像はしていた。残念ながら青春先輩は命名するのが“苦手”らしい。

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