第9章

 ベッドルームはさながら『ライト版・ソドムの市』という所だった。

 五人の女たちは全員全裸で、その周りには女優と男優も含めた照明、カメラ、演出助手、そして監督と言ったスタッフの、総勢10人がいた。

 坊主頭を先に立たせて俺が入ってゆくと、訝し気な表情で俺の方を見た。

 キングサイズのベッドの上の五人の女優と二人の男優は、今まさに撮影にかかろうかという、そんな状態だった。

『なんだよ。あんた!外で見張りをしてろって・・・・』

 髭面で巨人軍のキャップを被った男が、こっちを見て目を吊り上げた。

 どうやらこいつが監督らしい。

『だってよう。こいつら・・・・』

 坊主頭が俺とエガワ社長を横目で見ながら、さっきとは打って変わった小声でぼそぼそと言った。


認可証ライセンスとバッジを監督の前に突き出す。

『俺は探偵だ。依頼を受けてここまでやってきた。』

『探偵だろうと何だろうと、撮影の邪魔はさせないぜ』

 監督は妙に強気だ。

 ベッドの上の女優たちは、何が起こったかまだ理解出来ないような表情で、互いに顔を見合わせている。

 女優、と勿体つけて言ったが、彼女たちが誰なのか、もうお分かりだろう。

『そういう訳にも行かないな。あんたたちが本当の事を話してくれるまで、俺はここを動かん。もっとも、俺の推測してることと、あんたらの話は、そんなに違いはないだろうがね』

 俺は更に一層目を細くして、一同をねめつける。

『社長・・・・』

 監督は青タンを作ったエガワ氏に何か言おうとするが、彼は何も答えない。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 唐突だが、これでこの事件は終わりだ。

 ああ?

”お前の話はいつも突然終わるな。いい加減にしろよ”

 何とでも言うがいい。

 彼女たちはご想像の通り、行方不明になっていた人妻五人だった。

 RQシリーズ、わけても”ふたたびの思い出”の大ファン、というよりも

 挿絵とカバー絵を担当していたRAN先生のファンで、彼が男だと分かって、余計にその魅力に取りつかれてしまった。

 俺は初め、変な薬でも盛られたんじゃないかと考えたが、どうやらそうでもないらしい。

 純粋に彼の”女をたぶらかすテクニック”が、人よりも優れていただけのことだったようだ。

 しかし、RAN先生はエガワ社長に頼まれてAV女優の供給元となっていたのは間違いはないようだし、女たちも先生に言われるままに出演を承諾していたという訳だ。

 社長と先生は警察から任意同行を求められて取り調べを受けたが、脅迫の事実もなかったし、何しろ女たちが自分から進んで言うことを聞いていたのだから、どうすることも出来ず、書類送検だけという形になったらしい。

 彼女達五人は夫の元に帰されたが、その後どうなったか・・・・そこまでは俺も分からない。

 これだけだよ。

 血沸き肉躍る冒険物語を期待していた諸君、残念だったね。

 現実ってのは、所詮こんなものさ。悪しからず。

                                終わり

*)この物語はフィクションです。登場人物その他は、あくまでも作者個人の想像の産物であります。


 


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謎のロマンス小説 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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