第8章

『向こうから?』俺が聞き返すと、エガワ社長の手の震えは収まり、少しばかりそっくり返るようにして答えを返した。

『特にあの5人はね。俺達の業界だって、そう簡単に人手が集まるわけじゃないのさ。』

 彼の会社で目玉にしている人妻や熟女モノは猶更だ。

 以前はそっち系の風俗嬢や、ストリップダンサー崩れを拝み倒して出演して貰っていたのだが、それだって限界がある。似たような顔ぶればかりが続くと、流石に客も飽きる。

『そこで目を付けたのがあの”RANセンセイ”って訳さ』

 いい人材はないかと、あっちこっちを探している時に、セミプロで仕事をしている時に、RQシリーズに目を付けた。

『この道ウン十年のキャリアって奴かな。すぐにぴんと来たよ。この絵なら女を吊れるってな』

 エガワ社長は、それからくどくどと、RANセンセイをこっちの仕事に引き込むまでの経緯を話して聞かせてくれた。

 聞いていて、こっちがうんざりするほどの、あり触れた方法だった。

 まあ、別に珍しい話でも何でもない。

 センセイはかけ事・・・・馬に自転車、ボート、果ては非合法カジノに至るまで、見境なしだった。

 とてもじゃないが漫画やイラストの仕事だけじゃ追いつかないほどの借金があった。

 それにようやくロマンチックな小説の挿絵で、人気が出始めた頃である。

 金にだらしないなんて噂が広まってしまえば、清純で売ってるRQのイラストも下ろされてしまう可能性だってある。

『・・・・つまりあんたがその借金を何とかしてやるのと引き換えに、女を集めることを頼んだという訳なんだな』

 エガワ社長はあっさりと、そうだ、と頷いた。

『あいつはああ見えて、女を口説くことにかけても一流の才能を持っている。甘い言葉を囁けば、どんな女だっていちころだ』

『で?』

『で、とは?』

『女たちは今どこにいるんだ』

 口を割らなければ、荒っぽいやり方だって辞さないつもりでいたが、奴はこれまたあっさり、

『今新作の撮影中なのさ。都内のハウススタジオでね。童貞君二人を、五人でという、まあ、ちょっとどぎつい奴だよ』

『そうか、分かった』

 俺はレコーダーのスイッチを切ると、拳を固めて社長の面に真正面から縦拳の一撃をくれてやった。

 奴は椅子から吹っ飛び、部屋の隅に転がってゆく。

『探偵が警官オマワリと違うところを教えてやろうか?俺達はこんなことをしても、責任は一人で負えばいいってところだ。』

 俺は拳に息を吹きかけてから、

『さあ、これからそのスタジオとやらに案内してもらう。嫌とは言わさんぜ』

 

 奴が言ったハウススタジオは、世田谷の郊外にあった。

 外見は普通の一戸建て住宅だから、外からでは誰も怪しいとは思われないだろう。

 チャイムを鳴らすと、中からあまり人相の良くない若造が出てきて、胡散臭そうな目つきで俺とエガワ社長を見た。

 俺が認可証ライセンスとバッジを見せ、中に入れろというと、

”今は撮影中だから駄目だ”

 と来る。

 入れろ入れないで押し問答をしていると、奥からそいつよりもっと目つきの怪しい坊主頭が出て来た。

”社長が一緒だろうが何だろうが、今は撮影中なんだ。入れるわけにはゆかねえ”

 明らかに筋モノであることは直ぐに分かった。

『あんたらがどこのおあにいさんか知らんが、俺だって仕事で来ているんだ。それに行方不明の女が五人、この中にいるってのは分かってる。どうしても駄目だというんなら、ここから警察に連絡する。それでもいいかね?』

『い、入れてやってくれ・・・・』エガワ社長が紫色に腫れた唇を抑え、情けない声で坊主頭に言った。

 ちっ、と、坊主頭は舌打ちをし、中に入ることを許可した。

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