第3話(本能)


俺はノックの音にすぐに気づいた。いや、正しくは来ると思っていた。

「またお前が邪魔したのか?」

「邪魔した、の言い方は酷いよ本能くん。」


そう言いながら、「理性」は勝手に俺のベッドに腰かけた。

「また孝介くんが困ってるよ。本能くん、あんまり自分勝手なこと言うと、孝介くんが怠惰な人間になっちゃう。」

「お前も綺麗ごとばっか言って、孝介を迷わすなよ。」

「もう~っ」


そう言い、隣の「理性」はプクッと頬を膨らませた後、すぐに脳が送って来た視覚情報に目をやった。

「まだ迷ってるね。」

俺も同じ視覚情報を見た。「どうしようもねぇなぁ。」

「脳さん、孝介に学校へ行くよう強く伝達して!」

突然、「理性」は脳に伝えた。

「おい脳。孝介にテストで悩むなら休めって伝えてくれ。」

俺も、負けじと依頼した。

画面の中に映る孝介は、もう混乱状態だ。


『あー、大切なテストなのに…クラスの人に点数を知られて恥をかきたくない。いや、見せなければいいか? いやいや、それでも友達が身に来そうだ…休めたらいいのになぁ。』


俺達はその後も、お互い負けじと伝令を送り続けた。

「孝介くんが困ってるから、少し間を空けたらどうかしら?」

伝令をしてくれていた脳がそう言ったのは、孝介を10分程悩ませてからだった。

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