うちゅうのスギヤマの夏
第11イヴェ スギヤマ曰かれる、もはや、うちゅうクラスじゃん
〈スギヤマ〉は〈D.D〉だ。
〈D.D〉とは〈誰でも・大好き〉をローマ字にした時の頭文字である。
つまり、スギヤマは、特定のアニソン・シンガーや声優アーティストを〈おし〉ているのではなく、アニソンを歌っている、数多くの演者を好んでいるのだ。
通常〈D.D〉とは、例えば、自分が住んでいる地域に、アニソン歌手や声優がやってきた時に、それが誰であれ、地元のイヴェントに参加するようなタイプが多い。
これに対して,特定の演者を〈おし〉ている〈単推〉の場合、その演者が出演するイヴェならば、たとえ、それが何処であろうとも、日本全国、場合によっては海外にさえ〈遠征〉をする者もいる。
つまり、多くの場合、〈D.D〉と〈単推〉とでは、演者の別を問わない地元主義か、〈推し〉最優先ゆえの遠征主義か、という点において、イヴェンターとしてのコンセプトが全く異なるのである。
だがしかし、だ。
スギヤマは、これらに当てはまらない。
つまり、行きたい〈現場〉があるのならば、それが地元の関西であろうとも、遠征先の関東であろうとも、場所の如何は全く問わないのである。
ある時、とあるイヴェンターがスギヤマに、こう問うたことがあった。
「スギヤマさんは〈D.D〉なんだから、わざわざ〈遠征〉しなくても、関西で行われるイヴェントに行けば、それで十分なんじゃないんですか?」
「だって、行きたい、見たいイヴェントが、東京であるなら、〈遠征〉するしかないやん、シャーないやん」
このように、スギヤマは応えるのだった。
結果として、スギヤマは、毎週のように東京に来ている次第なのである。
しかし、〈D.D〉とは言えども、スギヤマも、アニソンを歌っていれば、誰でも構わないわけではないらしく、スギヤマにはスギヤマなりの、イヴェント選択基準があるらしい。
そんな〈D.D〉スギヤマには、こんな異名もある。
それは〈シソカリオソ・スギヤマ〉だ。
これは、スギヤマが〈遠征〉をする場合に、鈍行列車や高速バスなどの安い交通手段を使わず、基本的に新幹線で移動するが故の二つ名である。つまり、コスト・パフォーマンスよりも、身体への負担の軽さが、スギヤマには重要なのである。
「だって、キツイねん。それに、疲れたら、ライヴで盛り上がれへんねん」
こう、〈シソカリオソ・スギヤマ〉はよく言っている。
そんなスギヤマは、たとえ新幹線に乗らないとしても、利用するのは飛行機だ。
とあるヲタクがスギヤマに言ったことがある。
「飛行機に浮気するなんて、スギヤマさん、〈シソカリオソ〉の名折れじゃないですかっ!」
「だって、宿付きのパックの飛行機が安かったねん」
高速移動できて、疲れなければ、〈シソカリオソ〉とは言えども、新幹線へのこだわりは、どうやらないようだ。
〈シソカリオソ〉たる〈D.D〉スギヤマ伝説は〈現場〉活動だけに留まらない。
新曲は、原則、水曜日に発売されるのだが、しかし、水曜の開店時に確実に店舗に新譜を並ばせるべく、発売日の前日の火曜には店舗にCDが届くようになっている。この店舗到着日を〈フラゲ日〉という。
スギヤマは、このフラゲ日になると、毎週、大阪・日本橋のアニメショップをはしごして、その週に発売される数多くの新譜を購入している。欲しい店舗別特典がある場合には、同じCDを複数枚買いさえする。
またまた、とあるイヴェンターが、スギヤマにこう訊いたことがある。
「スギヤマさんて、もしかして全てのアニソンの新譜を買っているんですか?」
「そんなことあらへんて、聴きたい物だけや」
「それなら、サブスクで済ませてもよいのでは?」
「いやいやいやいや、モノで欲しいんや。ここ重要やで」
多くのアニメソングのファンが、自分の〈推し〉以外の演者に関しては、CDではなく、サブスクで済ませてしまう昨今、スギヤマの音源購入のあり方は、買いスギているとしか表わしようがない。
〈D.D〉スギヤマはCDの買い方も半端ないのだ。
さらに、スギヤマの凄いところは、雑誌やWEBといった媒体の如何を問わず、ほとんど全てと言ってよいアニソン関連の演者のプレゼントに応募している点だ。
そして、その数多くに当選している。
かつて、自分の〈推し〉関連の抽選に外れた、とあるイヴェンターが、スギヤマに詰め寄ったことがあった。
「スギヤマさん、ちょっと当たり過ぎじゃないですかっ! まるで〈抽選荒らし〉っすよ」
「いやいや、自分だってハズレることもあるわ。抽選は公平だから、シャーないやん。知らんけど」
「ないわ〜、ありえんわ〜、〈D.D〉なのに、もってゆくよな〜、自分の〈推し〉以外なら、ネタとしてオモロいけれど、〈単推〉にはたまったもんじゃないわ〜」
そんなスギヤマの戦利品の一つに、とある演者の等身大パネルがある。スギヤマは、等身大パネルにさえ応募し、当然のように当選しているのだ。ちなみに、その演者はスギヤマの〈推し〉ではない。
スギヤマは〈当たりスギヤマ〉でもあるのだ。
もはや〈うちゅう〉レヴェルとしか表わしようのないスギヤマの数々の伝説を、さらに深掘りするためには、こうした概略の列挙ではなく、具体的なエピソードを語る必要があるだろう。
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